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ルゥルカの名前が呪文の一部分だと気付いたのは外道たる行為を何度も繰り返した時だった。
スラム街では知らなかったがルゥルカの通り名は幾通りもあった。死者を冒涜し、禁断魔法に名を連ねる屍魔法を操り、各国に無敵の兵士を売り付けることから闇の売人と呼ばれる時もあれば、死神、吸血鬼と呼び名は数多くある。
その中で一番世に浸透しているのは『屍商人ルゥルカ』という通り名だ。
ルゥルカという名も偽名で、その名は代々受け継がれていくものらしい。
ルゥルカは、その名と屍魔法を伝授する人間を探していたようで、ジルを弟子にすべく、この隠れ家に連れてきた。
拉致された理由が理由だったので最初は驚いたがジルとしても親友を助けるには力が必要なため、弟子として屍魔法を習得すべくもがいた。
その結果、二年の歳月が経つ頃には、一人で屍兵を作り上げれるようになれた。
今日も一人で死体を作り直している時のこと。仕入れなら戻ってきたルゥルカがジルに向けて新聞紙を投げよこしてきた。
「何これ」
ルゥルカは答えない。元より、屍食鬼作製時しか喋らないのだから仕方がないと新聞紙を読む。商売に必要不可欠だと叩き込まれたので難なく読むことができた。
だが、そこに羅列された文字は予想もしていない内容だったのでジルは固まった。
「……アベル」
アルトリアスに一人の女王が即位した。
女王の名前はアデライト。先王の庶子である彼女は長い間、政から遠く離れた地で暮らしていたが先王が亡くなり、後継者もいない事から女王として王家に迎え入れられた、と記されている。
「無事だったんだ」
じわりと浮かぶ涙を拭い、ジルは新聞紙に載った写真を撫でた。煤けた灰色だと思った髪は本来なら美しい黄金だったようだ。あの時より長く輝く髪に王冠をいただいたその姿は、かつての面影があった。
「良かった。……いや、良くはないな」
ジルは眉間に皺を作る。アベルは女王として君臨する事を望んでいないはずだ。スラムにいた時、彼——否、彼女は元の生活に戻る事を嫌がっていた。ずっと、ジルと一緒に暮らしたいと言ってくれた。
その言葉に嘘はない事は、短くても共に過ごした時間から理解している。
「待ってて、アベル」
ジルの手の中で新聞が歪に曲がる。
「俺が必ず助けるから」
ジルは丸めた新聞を部屋の角へ放り投げると机へと向き合った。アベルを救うには国を相手に戦うという事だ。スラム生まれの塵にそんな知恵も力もないのは赤子でも分かる。
だから、ジルはまず力をつけなければならない。今以上に力をつけて、知恵を深めなければならない。
「ルゥルカ、俺にあんたの全てを教えてくれ」
幸いなことに、力と知恵を授けてくれる人物は直ぐ側にいた。
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