期待感

1/1
前へ
/13ページ
次へ

期待感

「せんぱ…もう、…あっ…」 か細い声で呻くように言って、俺の手の中で果てる花瀬。白濁した温もりが俺の手のひらに広がり、手指を濡らしていく。射精と同時に脱力した花瀬は、ぐたりとソファベッドに沈み込み、不規則に肩を上下させていた。そんな姿に悪戯心を起こした俺は、手のひらで受け止めたばかりの白濁を使ってイったばかりのペニスをぬるぬる扱く。噂に聞いた事のある男の潮吹きってのを、この際試してみようかと思った。 「やっ…」 想定外に続いたであろう刺激に、ビクッと逃げを打つ細腰。泣きそうな瞳で俺を見て、いやいやと小さく首を振る花瀬。 「せんぱ…それ、や、…」 「どした?気持ち良くない?」 「なんか…やです…ひ、あ、やっ」 「仕方ねえなあ」 と、口ではそう言いつつ、俺は内心機嫌が良かった。 案の定というか、何と言うか。花瀬は、他人に触れられるどころか、自慰すら満足にした事が無いらしい。皮の被り方は仮性だし汚れも溜まってはいなかったから洗うのはきちんと触っていたんだろうが、性的な目的で触れた事は無かったんだとか。 とんだ天然記念物。男で19。セックスはまあ、未経験って奴も居ておかしくはない。だけど、オナニーはするだろ。わざわざ自分で勃たせなくても、朝勃ちという現象だってあるんだから、とりあえず擦るだろ、男なら。少なくとも俺の周りでは、した事がないなんて話は聞いた事が無い。驚きだ。 でもまあ、そんなところも…。 (悪くない) その歳までとことん潔癖を守ってきた人間に選ばれて、手折ってくれと全てを差し出される。それは本当に悪くない気分だった。今どき処女の女だって、ここまで無垢じゃない。 すっかり気を良くした俺はその気分のまま、閉じかけていた花瀬の膝を両手で掴み開かせる。息を整えていた花瀬の足がビクッと震え、弛緩していた全身に緊張が戻る。首を起こし、少し不安を乗せたような表情で俺を見る花瀬。 そんな花瀬を安心させようと、俺は出来るだけ優しい声で言う。 「後ろ、触るぞ」 「…はい」 返事をした花瀬の表情が少し強張ったように見えたが、俺はそのまま彼の後ろに腕を伸ばす。指先が行き当たった先の会陰を撫でると、花瀬が息を詰める音が聞こえた。無理も無い。ストレート(異性愛者)の男なら、他人に触られる事はそう無い箇所だ。まあ、ストレートだってアナルを開発される趣味があれば別だろうが、少なくとも俺は触らせた事は無い。その下にあるアナルなんて、赤ん坊の頃に親にオムツの世話をされたくらいなものなのだから。 が、俺達はこれからソコを使ってセックスをしなければならないのだから、触れない訳にはいかない。 つつ、と指を下に滑らせると、目的の窄まりを見つけた。とりあえず周辺を撫でる。細かい皺の凹凸の感触。再び乱れ始めた花瀬の呼吸を聴きながら、俺はすぐ横の床に置いていたローションの容器を取った。少し悩んで、いつもより多めの量を手のひらに取り、両手で揉んで体温で温める。以前、そのまま女の子の体に掛けたら冷たいと文句を言われてからやるようになった。量を増やしたのは、使う場所がアナルだからだ。性別に関わらず、排泄器官でしかないアナルは潤滑液で濡れる事は無い。慣らしからフィニッシュまで、このローションだけが頼りなのだ。 温まったローションでぬるついた指を、花瀬のアナルに近づける。だが、そこで少し躊躇ってしまった。他人のアナルに指を突っ込むなんて体験は初めてで、少し臆してしまったのだ。しかしすぐに思い切り、つぷりと中指を挿入してみる。ハウツーには小指からとあったが、花瀬は慣らして来たと言っていたから大丈夫かと判断して。 思った通り、やや抵抗を感じるものの、俺の中指はすんなりと飲み込まれた。問題無さそうだ。 「…んっ、ふ…」 鼻に掛かった花瀬の声。それに背中を押されるように、人差し指を追加。当たり前のように肉壁の抵抗が強くなり、花瀬の太腿がぷるぷると震え始めた。 「痛いか?」 心配になって聞いてみたが、花瀬はふるふると首を降った。痛くはないが、生理的な反応というところだろうか。ともあれ痛くはないならと指を抜き差ししてみる。 「くっ、ふうっ…」 漏れ聞こえてくる声はさっきよりも苦しげだ。場所が場所なので無理は出来ないと、俺は一旦指を引き抜こうとした。けれどそれを花瀬の手に押し止められる。 「だい、じょぶ…です、そのまま…」 「…そう?」 本人がそう言うのならと、俺は指でのピストンを続行した。時々出入り口をぐるりと広げるように指を回す。 「あっ、せんぱっ…んんうっ!」 花瀬のアナルがきゅうっと俺の指を食む。締め付けられる肉圧。悪くない。 「あ、あ、ああっ…」 心做しか甘さを帯びてきた花瀬の声も、耳に心地良い。表情は乏しいながらも、潤む瞳は饒舌だ。 無感情、鉄面皮、可愛げが無い、取っ付き難い。花瀬を揶揄する陰口は数々聞いて来たけれど、今の彼にはそのどれもが当てはまらない。 ただただ俺の手に翻弄されるばかりの、可愛い男。 (この分なら、挿入れてみても気持ち良いかもしれないな) どうせ一夜限りでも、やるからには気持ち良い方が良い。 俺はこれからの挿入に期待しながら、薬指を足し三本にして動かした。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

245人が本棚に入れています
本棚に追加