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それから時々、作曲家センセイのモリエは、東京に来ることがあると、俺を呼びだした。
怖いのは、俺がどこで何をしていようが、奴は何故かその場所を当ててしまっていることだ。
あまりにそれが頻繁なので、さすがの俺も参った。
とにかく奴が俺を呼び出す時は、実に無礼千万な言い方になるので、結局俺が怒られることになる。
奴が俺を呼び出すのは、たいていギターのフレーズだった。
基本がピアノとサックスの奴なので、ギターアレンジのための「音」が自分の中に足りないのだ、という。
だったらピアノで考えられる範囲の曲を作っていればいいのじゃないか、と俺なんかは思う。
どうも奴に言わせると、「音がそこにギターがあるよと言ってるからそれは俺がどうこうできる問題じゃない」だそうだ。
しかも俺っぽい音を合成したものではいけないのだと。
だからそのたび奴につきあってきた。
時には喫茶店でコトバで説明して済むこともあったし、時には会社が手配してくれたスタジオで、二日間眠らずぶっ通し、他の約束をキャンセルしてしまうこともあったりした。
どうしてそこまでして付き合うのか、と周りの奴に言われたりもした。
だが理由は――
今になって思えば、考えられなくも、ない。
考えられなくも、ないのだ。
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