ウォーターカラー

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*** 「居ないんですか?」  ええ、と奴によく似た母親は頬に手を当てて首を傾げた。  つい三十分前のことだ。 「今朝、浜に出てくるって言ったきりなのよ」 「浜へ」  ちら、と斜め上にある時計を見る。  ドライフラワーの入った壷の上にある時計は、午後二時を少し過ぎていた。 「お昼も食べずに、お腹減っていないかって心配なのよ」 「あの… 雨が降り出していますが」 「あら」  彼女は手を頬から口へと移動させた。  細い銀の指輪がきらりと光る。 「あらあらあらあらあらあら大変。ねえミナト君、あの子のところへ傘、持っていってくれないかしら」 「俺… が?」 「だってわたしじゃあ、あの子の居場所は判らないわ」  そう言いながら彼女は傘立てから、黒い大きな傘を取り出して、俺に突きつけた。  このひとはいつもそうなのだ。 「浜ですね」 「そう浜。どうしていつもあなたは判ってしまうのかしらねえ?」  その疑問には答えずに、俺は荷物を置いて再び外に出た。
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