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「居ないんですか?」
ええ、と奴によく似た母親は頬に手を当てて首を傾げた。
つい三十分前のことだ。
「今朝、浜に出てくるって言ったきりなのよ」
「浜へ」
ちら、と斜め上にある時計を見る。
ドライフラワーの入った壷の上にある時計は、午後二時を少し過ぎていた。
「お昼も食べずに、お腹減っていないかって心配なのよ」
「あの… 雨が降り出していますが」
「あら」
彼女は手を頬から口へと移動させた。
細い銀の指輪がきらりと光る。
「あらあらあらあらあらあら大変。ねえミナト君、あの子のところへ傘、持っていってくれないかしら」
「俺… が?」
「だってわたしじゃあ、あの子の居場所は判らないわ」
そう言いながら彼女は傘立てから、黒い大きな傘を取り出して、俺に突きつけた。
このひとはいつもそうなのだ。
「浜ですね」
「そう浜。どうしていつもあなたは判ってしまうのかしらねえ?」
その疑問には答えずに、俺は荷物を置いて再び外に出た。
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