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「知らないヒトだ! おかあさん、知らないヒトがうつってるよ」
勇希が小さな両手で目を覆った。
「おかあさんの、バカ。だから言ったじゃんヤだって」
「勇くん勇くん、知らない人じゃなかったよ」
「うそ! 知らないヒトのかおだったよ。あーあ、ぼくもう死んじゃうんだっ。おかあさんのせいだからね」
ひーんと泣き出す我が子の肩を抱き寄せる。
「死なないって。勇くんはかっこいいお兄さんになるんだって、お母さん、分かっちゃった」
勇希のつむじを撫でて、それからもう一度、水たまりをのぞき込んだ。
水たまりの中いたのはーー大人になった勇希の姿。
今とはだいぶ様子が変わっているけれど、口元や、眉の形、輪郭……どことなく面影がある。見間違えるはずがない。
降りたての雨がつくった水たまり。そこに映ったのは、知らない人の顔じゃなかった。大きくなった未来のアナタ。だから勇希は死なないの。
それを伝えても息子は泣くばかりで、ここに連れて来たことを少し後悔したけれど……。
大人になった勇希に、今日のことを話す未来が想像できて、私は自然と微笑んでいた。
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