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突然、強大なガラス玉が落っこちたかのような轟音が響いた。
続いて、用を足しに行った息子が「きゃあああ」と泣き叫ぶ声も。
私でさえ心臓が止まりそうになったのだから、幼い子ならなおのこと。
アイロンのスイッチを切って、あわてて勇希のもとへ向かう。
トイレのドアを開ければ、便座に座ったまま、こちんと小さく固まっている5歳の息子がいた。
「お、おかあさ……」
「こわかったね。今の雷は大きかったもんねえ」
トイレから出るのを手伝って、大丈夫よと声をかけても、息子の心はほぐれない。
ずっと私から離れようとしないのだ。
アイロンがけの続きをしたかったのに、すき間ないほどぴったりくっつかれていたら、危なくて仕方がない。諦めて、コアラのように両手両足をまわしてくる息子を膝の上に乗せ、ぎゅうっと抱きしめた。
その間、ひっきりなしに雨音や風の音、低い雷鳴がとどろいていた。
適当なテレビ番組をつけてやり過ごすうち、やがて少しずつ、窓の外が静かになっていった。
「雷さん、そろそろ遠くに行きそうよ? 雨もすぐ止むかも。もう大丈夫なんじゃない」
夕方に差しかかり、そろそろ家事を再開したい私は、息子を引きはがすべく話しかけた。しかし、息子はかたくなに首を横に振る。
「ぼく、カミナリがこわいんじゃないから」
さっきまで明らかに雷をこわがっていたくせに、憤慨した様子で眉をつりあげてみせる。強がっているのかと思い、私は少し意地悪な質問を投げかけた。
「じゃあなんで、おかあさんから離れられないのかな?」
「雨がやむのが、こわいの」
はて、それはどういうことだろうか。
今まで勇希の口から、そんなセリフが出たことがあっただろうか?
「雨が止むと何がこわいの」
「ゆりぐみのハルくんが言ってた。雨あがりの水たまりを見ると、知らないヒトのかおがうつるんだって。知らないヒトを見つけちゃったら、死んじゃうんだって」
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