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彼女との出会い
「私ね、真っ暗なのが、いやなの。」
彼女のあの言葉は今でも深く残っている。
彼女とは大学で出会った。気さくで、笑顔が素敵で、いつも明るいところにいた。向日葵のように眩しい髪を風になびかせていた。そんな彼女に惹かれて、中高と日陰者だった分際で声をかけたのが私だった。私の上ずった声にも笑顔で返事をしてくれたときから、私はすでに恋に堕ちてしまっていた。
彼女にふさわしくなれるように、明るくなれるように、勇気がもてるように、精一杯努力をした。アルバイトも敢えて接客業に挑み、彼女と話すきっかけを作るために大学にも積極的に顔を出した。そうしていると彼女は海外留学に興味があると聞きつけたので、アルバイトの日数を増やして自分も予算を作っていくようにした。それで迎えた前期の夏季休暇では追いかけるようにヘルシンキに辿り着いた。
今思い出してもストーカー行為そのものだったにも関わらず彼女はそんな私に微笑みかけてくれた。
「私、白夜を観たかったの。」
降り立った日からすでに夜になっても陽は暮れず、街は賑わい、私と彼女も公園のベンチで音楽に耳を傾けながら取り留めの話を続けていた。
「私、冬が嫌いだったわ。暗くて、寒くて、閉じ込められるようで、思い出すのも嫌。」
「レコードやバンドの音楽が遠くから聴こえて、太陽も灯りも照らしてくれる、毎日がこうだったら素敵なのにね。」
「こんなに夜ふかししたのは初めて。」
私は、彼女との取り留めのない会話の中で、自分の身の上話もしたような気はする。しかしそんな自分の話などまるで覚えていない。自分から話したことで覚えていることなんて、これからも一緒にいたいこと、冬はニュージーランドに行こうと誘ったことだけだ。
その誘いに対して、彼女は笑ってくれた。沈まぬ夕陽も相まって、眩しくて目を細めてしまった。
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