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「おやすみなさい」 麟君の両親に挨拶をして、案内されるままに麟君の部屋に入った 友達の部屋に入るのなんていつ振りだろ? 多分、小学校の時が最後な気がする 「散らかっててごめんな」 少し恥ずかしげに笑う彼に、僕もつい顔が緩んでしまう 脱ぎ捨てられた制服に、勉強机には教科書やノートが散乱していた 「やっと受験から解放されたって感じで、まだ片付けも出来てないんだ」 学ランを拾ってハンガーに掛けていくのを、部屋の隅で見ていた どこに座ればいいのかわからなくて、戸惑ってしまう 僕、今日はここで寝るんだ…… 泊まることは、お父さんの留守電に伝言を残した 緊張して、ちゃんと喋れたかはわからないけど、今日は友達の家に泊まるって それだけは、ちゃんと伝えることが出来た お父さんがあのメッセージを聞いてくれるのかはわからないけど… 今日は、皐月(さつき)さんと一緒だから… 多分、今晩も帰ってこないだろうから… 床で寝ようと渡されたクッションを抱き締めて横になろうとした瞬間、麟君に抱き締められる 「朱鳥(あすか)、寒いからこっちにおいで」 ベッドに連れて行かれて、ただ寝るだけなのに心臓がドキドキしてしまう べ、別に…期待してるわけじゃない 僕なんかを麟君が抱いてくれるわけじゃないし… ただ、ベッドは一つしかないから、一緒に寝るだけ… (りん)君に抱き締められながらベッドで横になって眠った 背中に麟君の体温を感じ、心臓がドキドキいってるのを聞かれるんじゃないかって不安になる 「朱鳥(あすか)、緊張してる?オレも…好きな子とこんな事して、めちゃくちゃ緊張してる」 彼の声が耳元で聞こえてくる 喋るたびに、吐息が耳に当たって恥ずかしいのに、『好きな子』という言葉に頭がスゥーッと冷めていく 深呼吸の後、ゆっくり起き上がり 「ごめん、やっぱり僕は床で寝るから…」 渡されていた毛布に包まり、部屋の隅で小さく丸くなって横になる 「えっ!?ちょっ、朱鳥なんで!?」 「明るくなったら、すぐ出て行くから… 彼女じゃないのに、泊まってごめん。迷惑かけちゃってごめん、なさい…」 これ以上惨めな思いをしたくなくて、毛布に顔を埋めて隠れる 「朱鳥(あすか)?何か勘違いしてない?」 ベッドからわざわざ降りて、僕の側に来てくれたけど、ほっといて欲しかった これ以上、惨めな思いはしたくない これ以上、勘違いしたくない 「速水君の、彼女さんに悪いから …誤解されるような事、あると困るし……」 毛布に顔を埋めたままポツリポツリと言葉にする 何もかも、諦めたはずなのに ひとりぼっちには慣れたはずなのに いつの間にか涙が溢れ落ちていた 「朱鳥……顔、見せて?」 麟君が毛布越しに抱き締めくれながら優しく囁いてくる 「朱鳥は、オレのこと、好き?」 答えていいのか悩んでしまう この気持ちは迷惑でしかないから… でも、諦める為にも、ちゃんとフラれたほうが… コクンと小さく頷き、少しだけ顔を上げて麟君の顔を覗き見る 涙でボロボロになった汚い顔を見られたくないのに、彼は僕の顔を覗き込んでいた 今にも泣きそうな、どこか嬉しそうな顔で、僕を見ていた 「ホント?朱鳥、オレのこと…好きになってくれたの?」 コツンとおでこに彼のおでこを当てられる フルなら、そんなことしないで欲しい… 少しだけでも期待してしまうようなこと、しないで欲しい… 「ごめん、なさい。好きになって、ごめんなさい」 僕のこの気持ちは彼には迷惑でしかないのはわかってる だから、早くフッて欲しい 「2度と顔を見せないようにするから…彼女さんとの邪魔なんて、絶対しないから… もう、諦めるから……はっきり断ってください。嫌いだって、気持ち悪いって、言って…」 涙ながらに訴え、彼の肩を押して離れようとする 早く離れなきゃいけないのに、彼はさっきよりも強く抱き締めてきて 「なんで?やっと両想いになれたのに?」 嬉しそうに笑っている彼が理解できない 『両想い』って言葉が理解できない 「……だって、昨日…一緒にいた人は?」 おずおずと昨日、一緒にいた彼女のことを尋ねてみるも、誰のことなのかしっくりこないのか、真剣に悩んだ後クスッと笑い 「あぁ、あの子はオレと一緒で片想い同盟を組んでたんだよ。 あの子の好きな人も同じ大学を受験してて、合格したら告白しよう!ってお互い励まし合ってたんだ」 頭まで被っていた毛布を脱がされ、彼の温かい手が僕の頬に触れる 「オレが好きな人は朱鳥だよ。前にも言っただろ?オレの運命は朱鳥だって… 大学でも一緒に居たいから、こっそり先生に朱鳥の進学先を聞いちゃったくらい…」 ゆっくり諭すように言われ、涙を拭うように唇が触れる 「朱鳥、あの時守って上げれなくてごめん。声、また聞けるようになって嬉しい」 耳元で囁かれる麟君の声に身体が熱くなってしまう 「……ごめ、なさい…。好きになって、ごめんなさい…」 謝る度に、麟君は「好きだよ」「愛してる」って言ってくれた 泣き過ぎて、そのまま寝落ちしてしまったけど、麟君は僕をベッドまで運んでくれて、ずっと抱き締めてくれた 久々にちゃんと寝れた気がする あの夢を見なくて済んだ気がする パパが出て行ったあの日の夢、お父さんに初めて抱かれた時の夢、ずっと、首を絞められながら犯される夢を…
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