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10
10日振りに登校するも、教室に入った時の視線は冷たいものだった
当然だと思う…
Ωでもないくせに、発情期だとお父さんが勝手に連絡して学校を休ませているから…
クラスの人は、僕がβなのを知っているから…
βのくせに、Ωの真似事をしている奴
陰気なマスクくん
喋れないってのは嘘なんだろ?
あんなのが成績上位とか…教師に媚びてるんじゃないか?
アイツの親も変なんだろ?
売春でもやってるのかな?
色々な憶測と陰口が囁かれる
本当のことも混じってるから、否定なんて出来ない
そもそも、喋っちゃいけないから、否定なんて出来ないけど……
それなのに、1人だけ僕のことを心配してくれる人がいた
αの彼、速水君
彼だけが心配気な顔で僕に駆け寄って来て、顔を覗き込んでくる
「朱鳥、もう大丈夫なのか?まだ顔色が悪いな…。保健室に一緒に行こうか?」
大型犬が飼い主を心配しているように、でも、久々に会えて嬉しいって気持ちが表情から溢れ出している
僕は大丈夫だと伝えるように首を横に振ったのに、無理矢理連れて行こうと手を握られてしまう
その瞬間、休みの間中ヤラれていた行為と体温を思い出して吐き気を催してしまう
全身に鳥肌が立ち、触られた場所が気持ち悪い
お父さんの息遣いや触れ方がフラッシュバックされ、呼吸が荒くなってしまう
「だ、大丈夫…だから……ほっといて…」
慌てて彼の手を振り払って抵抗するも、怖くて手が震えてしまう
彼に震えているのがバレないように、隠すようにギュッと拳を握った
「朱鳥…」
速水君が心配そうに見つめてくるけど、今は顔を見られたくない
自席に座って頭を腕で隠すように小さく蹲って顔を隠した
「朱鳥…」
飼い主に捨てられた子犬のように、寂し気に僕の名前を呼んでくる
休みの間、ずっと弄られ続けた身体がツラい
絶え間なく玩具やお父さんので快楽を高められた身体がツラい
媚薬の効果は切れてるはずなのに、ナカが疼いて仕方ない
速水君に見詰められると、身体が疼いて…
「朱鳥、やっぱり保健室に行こうか。フェロモンが出て万が一ってことになったら大変だから…」
僕の腕を引っ張り、無理矢理立ち上がらされる
僕よりも体格のいい彼とお父さんの面影が重なってしまい、悲鳴に近い声を上げてしまう
「ヒッ!触らないでっ!」
自分でも思っていた以上に大きな声を出してしまい、速水君だけでなく、クラスメイトも驚いて僕の方を見ている
僕が声を出したから…
僕が、拒絶してしまったから…
「ぁ…あ、の…ごめ、なさぃ…」
久々に大きな声を出してしまい、喉が痛い
でも、それ以上に自分の出してしまった声と言葉に罪悪感が募っていく
喋っちゃいけないのに…
声を出しちゃ、いけないのに…
マスク越しに口元に手を当ててヨロヨロと後退るも、教室の壁と机でそれ以上逃げることもできない
クラスの人の視線が怖い
みんなが、僕のコトを嫌悪している
小さくカタカタと震えてしまう身体を抱き締め、少しでも隠れたくて、小さく踞ろうとした瞬間
「朱鳥ごめんね。ちょっとだけ、我慢して」
いきなりお姫様抱っこで抱き上げられ、そのまま保健室に小走りで連れ攫われた
教室では黄色い声や野次が聞こえてくるけど、どうすることも出来ない
ただ、制服越しに感じる彼の温もりは嫌じゃなかった
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