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保健室までお姫様抱っこのまま連れて来られた
降ろして欲しいってお願いしたけど、聞き入れて貰えなくて
「暴れると落とすかもしれないから…ごめんね」って眉を下げて謝られてしまい、渋々この状況を受け入れることにした
保健室に到着したものの、そこには誰も居なかった
扉の前に、『会議にて不在』と書かれたホワイトボードが掛かっており、誰も居ないことを示唆していたが、速水君は気にすることなく保健室へと入って行った
真っ白で清潔感のある保健室には、薬品の匂いが微かにする
ずっとお父さんの汚れた服の臭いと自分の吐き出した精液の臭い、汗や色々なモノの臭いを嗅がされ続けていたせいか、薬品の匂いですら良い匂いのように感じてしまう
僕たち以外誰もいない保健室
ただそれだけのはずなのに、なぜか悪いことをしているような気になってくる
「…………」
丁寧に、慎重にベッドに座らされ、彼が僕の頬を撫でながら心配そうに顔を覗き込んでくる
「朱鳥ごめんね。いきなりあんな…嫌だったよね」
僕をベッドに座らせて、自分は床に膝を付けて僕の顔を見上げてくる姿にどうすればいいのかわからない
αのくせに…
僕みたいなβのことなんて、気にしなくていいのに…
今にも泣き出しそうな、情け無い顔につい絆されてしまい、首を横に振って否定する
ちゃんと大丈夫って伝わったかはわからない
でも、お父さんと違って、速水君に触れられるのは嫌じゃないって思ってしまう…
「朱鳥は……番とか、恋人は…いるの?」
何故か不安そうな、緊張した面持ちで言われるも、彼の言葉の意味が理解できない
βである僕に、番なんて存在するはずないのに…
意味がわからなくて、コテンと首を傾げるとどこかホッとした笑みを浮かべ、頬を撫でていた手が僕の耳に触れ、そのまま首筋を撫でる
「じゃあ、コレは…虫刺されだよね…」
どこか寂しげな表情と僕の首を撫でる仕草に、彼が何を見つけたのかを察してしまう
お父さんが付けた痕
僕をパパの代わりにした痕
つい数日前までの行為の数々…
思い出すだけでも吐き気を催す行為の数々に、唇を噛み締め、そっと痕を隠すように自らの手で覆った
「ごめん…、いきなり触って…」
眉を下げて謝ってくる彼に、自分の本当の第二性を伝えなければいけない
彼が、勘違いしているから…
僕のことを、Ωって思っているから…
不意に僕の中で誰かが囁いてくる
Ωって思われていた方がいいんじゃないのか?
勝手に勘違いしたのは彼なんだから…
Ωって思われてるから優しくしてくれる
僕みたいな奴でも、気に掛けてもらえる
「………」
言わなきゃって思うのに…
僕は、Ωじゃないって言わなきゃいけないのに…
彼の顔を見ていると躊躇してしまう
「朱鳥、オレの番になってくれませんか?
オレは朱鳥のことが本気で好きなんだ。誰にも渡したくないくらい、朱鳥のことが好きなんだ」
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