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秋が過ぎて、冬になって… 受験が近付いてきているせいか、学校でもみんな静かだった 登校する日も減って、みんな受験勉強に勤しんでいるんだと思う 最近は、お父さんの帰りが遅い お仕事が忙しいのか、ご飯も食べて帰ってくる日が増えた 日付けが変わっても帰って来ない日が増えた 誰も居ない家で、パパの着ていた擦り切れた服を着て、お父さんを静かに待つだけの日々 どうしてなのか、お父さんが僕を抱かなくなった 僕をパパの代わりに呼ぶこともなくなった 3ヶ月毎の発情期の休暇も、お父さんは取らなくなった ただ、帰って来ても僕のことを見てはくれない 疲れているのか、僕のことを無視してさっさと寝てしまう日々 誰かとよく電話をしていて、その時はすっごく楽しそうに話しているのを見た その相手が誰なのかも僕は知らない 聞いちゃいけないし、喋っちゃいけないから…… テーブルに置かれたお金を持ってスーパーに行き、お弁当を買って食べる お父さんが帰って来てくれるまで、部屋で勉強をする お父さんが帰ってきたら、パパの代わりをするけど、前みたいに触れては来ない ただ、無機質な目で僕のことを見て来るだけ… 僕って存在は、この家には居なくて… パパの代わりをするだけの僕 でも、もうお父さんはパパを必要としていないのかもしれない 僕がパパの服を着ていなくても、何も言われなくなった マスクをし忘れていても、怒られなくなった クリスマスの日も、お父さんは帰って来なかった 煌びやかなオーナメントで飾られた街を、画面越しに眺めるだけの日々 「朱鳥(あすか)、メリークリスマス!欲しいプレゼントは貰えたか?」 まだ3人で幸せに暮らしていた時に貰った車のおもちゃ 3人でお揃いのセーターを着たり、パパが作ってくれた大きなケーキを食べた 幸せそうに笑いながら、本当に楽しかった日々 今とは全然違う、楽しかった思い出… 12月31日、今年の終わりも僕はひとりぼっちで過ごした お父さんは昨日から帰って来ていない ひとりぼっちで、お父さんの帰りを冷たい部屋で待ち続ける 除夜の鐘が鳴るのを、ひとり寂しく聞いていた 家族仲良くお詣りに行くのか、外から楽しげな声が聞こえてくる この部屋とは大違い 耳鳴りがしそうなくらい、静かすぎる部屋で、僕はひとりぼっちで待ち続けた 誰を待っているのかわからなくなりながら… ただ、誰も帰って来ない部屋で、1人黙々と受験勉強をした 大学の合格発表の日、久しぶりに速水(はやみ)君を見た 張り出された紙に、僕の受験番号を見てホッと息を吐く 無事に合格出来た 落ちたら、お父さんになんて言えばいいのかわからなかったから… 無事に合格できて、心から安堵した 周りには知らない人が合格を祝いあったり、落ちた人を慰めているのを他人事のように見ていた そんな人混みの中で、彼を見つけた 同じ大学を受けていたなんて知らなかった 一瞬目が合って、微笑まれた気がしたけど、気のせいだと思う 彼が僕なんかに気付くはずないから… 気付かれたくなくて、見たくなくて、僕は逃げるようにその場を立ち去った 彼も合格してたんだと思う ちゃんと受かったんだと思う 嬉しそうに笑って、ガッツポーズをしていたから 彼の隣にいた人と、喜びを分かち合っていたから… 彼の隣には、可愛い人が一緒に居た 学校でも美人で有名な人 同じαで、勉強もスポーツも出来て、彼にお似合いの彼女 2人が付き合ってるって噂を聞いたことはある 噂だって言ってたけど、あの2人を見てホントのことだったんだって確信してしまった きっと、あの人が彼の恋人で番になるんだって… 僕のこの気持ちを隠したいのに… 彼への気持ちを失くしたいのに… 胸が締め付けられたみたいに痛い 僕も受かって嬉しかったはずなのに、落ちればよかったって後悔してしまう 違う大学に行けばよかった、そもそも、大学なんて行かなきゃよかった… 2人の仲睦まじい姿を見るたびに、胸が苦しくなるんだろうな… もう、彼は僕のことなんて好きじゃないだろうから…
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