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「おーい、みぃ子」 誰かがみぃちゃんを探している声が聞こえる 「みぃ子ー、どこだー?」 みぃちゃんの飼い主さんの声 みぃちゃんのことを、必死に探している人の声 何だか聞き覚えのある声に、つい笑ってしまう 彼だったら良いのに…って思ってしまう 「みぃちゃん、飼い主さんが呼んでるよ。お前にはお家が出来たんだから、早く帰らないと…」 猫を抱き上げ、外に出るように促すも、僕の腕に絡み付いて一向に出て行こうとしない 「みぃちゃん…、ダメだよ」 困り顔で猫を見詰めていると、トンネル内がいきなり明るくなり、眩しさから目を細める 「おーい、みぃ子?ここか?……朱鳥(あすか)?」 急にトンネル内を照らされ、名前を呼ばれる 中を覗き込む人影を確認しようにも、眩しくて顔を確認出来ない 手のひらで影を作るもやっぱり眩しくて、目を細めて相手を見つめる スマホのライトで中を照らしている人 顔は僕からは見えないのに、誰なのかわかってしまう 会いたいって願ってしまった彼 「朱鳥(あすか)?どうしたんだ?出ておいで」 ライトを消し、僕に暖かな手を差し伸べてくれる 彼から逃げまわる以前の時と変わらない優しい声で名前を呼ばれ、つい差し伸べてくれる手を取りたくなる 僕なんかが、彼に縋っていいのかな… でも、もうお父さんは僕のことなんて必要なくて… むしろ、もう要らない人間で… 最初から、不要な子だったから…… 「ニャー」 僕が悩んでいると、早く出ろと言わんばかりに僕の足に額を押し付けてくる 「みぃちゃん…」 まだ出て行こうとしない僕に痺れをきたしたのか、「シャー」と威嚇してくる姿に、どうすることもできなくて、促されるままに速水(はやみ)君の手を取ってしまった 速水(はやみ)君は、僕の手を繋いだ瞬間、何だか笑っていたように思えた そのままグイッと引っ張り上げられ、ギュッと力強く抱き締めてくれた 「泣いてたの?どうかした?大学は…受かってたよね。オレも朱鳥(あすか)と同じ大学を受験したから、合格してるのを見たし…」 少し緊張気味に話してくる彼の声が耳に心地良い ずっと聞きたかった声 ずっと触れたかった体温 「みぃ子がいきなり飛び出して行ったから驚いたけど、自分のご主人様を迎えに来てたんだな」 僕の足元に頭を擦り付けてくるみぃちゃんと、僕の頭を優しく撫でてくれる速水(はやみ)君 こんな…僕に都合の良いこと、あり得ないのに… 「朱鳥(あすか)、身体冷え切ってるからオレの家に行こう?みぃ子も朱鳥(あすか)に来て欲しいみたいだから…ね?」 速水(はやみ)君の優しい笑顔に、そのまま流されて頷きたいけど、やっぱり遠慮してしまう 僕なんかが行っても、迷惑にしかならないから… 「ンナァウン」 みぃちゃんが文句でも言っているように何か喋り掛けてきて、何を言っているのかわからなくて、つい2人で笑ってしまった 「ほら朱鳥(あすか)、みぃ子が寒いから早く帰ろうって怒ってるよ」 クスクス笑う彼から目が離せない ギュッと握りしてた手を離してはもらえない 迷惑になるだけだから、ホントは行っちゃダメなのに、今はこの手を離したくなかった だから、今だけ 少しの間だけ… 行くアテもないから… 今だけは、この温もりに縋り付きたくて… 離したくなくて… 「ごめんなさい。少しだけ、お邪魔してもいいかな?」 恐る恐る言葉にしてみたけど、彼は嬉しそうに笑ってくれた こんな我儘、今日で最後にしなきゃ… 彼には、大切な人が他にいるはずだから……
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