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(おおとり)、次のヤツを答えろ」 先生に呼ばれ、しぶしぶ立ち上がって黒板に黙って答えを書きに行く 本当なら口頭で答えるだけで良いんだろうけど、僕はいつも一人だけ黒板に板書して答えるしかない 周りからの視線に震えてそうになるのを堪え、黙々と数式を書き上げ、答えを求めていく コソコソ喋っている人の声、白いチョークが擦れる音、校庭でサッカーでもしてるのか、声援の声が聞こえる 静かに回答を書き上げ、コトンッと音を立ててチョークを置いた ポケットに入れていたハンカチで、チョークで汚れた指先を拭い、先生の返事を静かに待つ 先生は、黒板に書かれた回答を見て頷き 「おう。正解。戻ってもいいぞ」 ニッカリと笑みを浮かべ僕の肩をポンポンと叩くも、いきなり触られたせいでビクッと反応してしまう 僕が怯えた態度を取ってしまったせいで、あからさまな溜息を吐かれ 「(おおとり)、その態度は傷付くぞ。何かあるならちゃんと喋れよ」 クラスのみんなに聞こえる声でワザと言われ、再度溜息を吐かれる 僕が喋らないことは先生たちも知っているのに、この先生はいつも回答後に言ってくる それでも僕は何も言えなくて、先生の顔を見ない様に俯きながらペコリと小さく頭を下げ、教室の廊下側の1番奥の席にコソコソと戻る 机の隣を通る度、周りからコソコソと何か言われているが、聞きたくない 少しでも視線から逃げるように、目を合わせたくなくて、前髪で必死に顔を隠した 前髪の隙間から微かに見える世界 僕の顔なんて、誰にも見られたくないから… 出来るだけ小さく縮こまって、目立たないように教科書に隠れているのに、僕の方をわざわざ見てクスクス笑う人がいる 授業中なんだから、前を見ていればいいのに…… 「マスクくん、ホント喋らないよねぇ~」 僕の前の席でコソコソ話す人の声が聞こえる 聞きたくないのに、無駄に耳に入ってくる 何も聞こえないフリをして、ただひたすらに勉強に集中する 誰にも話しかけられたくないし、喋りたくない 教室では、出来るだけ小さく縮こまって隠れていたい 僕が喋るとロクな事がないから… 僕が話すと、不快になるだろうから…… 誰とも話したくないし、誰も構わないで欲しい 無意識にシャーペンを握る手が強くなってしまい、ポキポキと芯が折れてしまう 折れた芯が白いノートを汚していく パパとお父さんみたいに… 折れてしまったモノは元通りになんて戻らない 幸せだったあの時は、もう戻ってなんてこないから… 僕が居たから綺麗だったものは汚れてしまった 僕が喋らなきゃ、今も真っ白なノートみたいに綺麗な未来があったのかな…… 本当、僕があの時、余計なことを言ってしまったから… 僕なんて、声が出なければ良かったのに…
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