【完結】22

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【完結】22

麟君と想いが通じ合ったあの日、手を繋いでリビングに降りると、麟君のお父さんとお母さんは、僕たちを当然のように受け入れてくれた 僕みたいなβでも、麟君の恋人として迎え入れて貰えた 「朱鳥君、麟のことよろしくね。この子、パパと一緒でかなり嫉妬深いから、何かあれば私に相談してね。同じβ仲間が出来て、ホントに嬉しいから!あ、麟と喧嘩した時はちゃんと相談するのよ」 ママさんが僕の手を握ってぴょんぴょん跳ねながら言ってくる もう一人息子が増えた~ってパパさんに向かって言ってて、すごく嬉しそうだった 麟君のお父さん、お母さんって呼んだら怒られた 「朱鳥君はこれから家族同然なんだから、ママ、パパって呼んで!」ってママさんに怒られて… 恥ずかしかったけど、嬉しかった 僕は、あの日から麟君のお家でお世話になってる お父さんと皐月(さつき)さんが居る家に帰るのが怖くて、でも行く場所なんてなかったから… 一人暮らしを始めようにも、保証人とか連帯責任をしてくれる人を探さなきゃいけない 家賃もどうやって払っていけばいいのか… 学費すら、お父さんは払ってくれるのかわからない… そんな悩みと不安を抱えていたけど、パパさんと麟君が僕を迎え入れてくれた ママさんも息子が増えたって言ってくれた 麟君のお父さんは、警察の人だったらしい 前々から僕の家は何度か通報されていて… 高校の担任の先生も、児童相談所に連絡してくれてたらしい… 本当はもっと早くに保護されるはずだったんだって… パパさんに連れられて、麟君も一緒にパパと久々に再会した 8年ぶりに会ったパパは、最後に会った時よりも少しだけ老けてしまったように見えるけど、やっぱり綺麗だった 「朱鳥、ごめんね。助けてあげられなくて、ごめんね」 パパが涙ながらに僕を抱き締めて何度も謝ってきた パパも警察と弁護士さんに相談はしてたんだって… でも、お父さんに捕まったら、もう逃げれないからって… 怖くて近付けなかったって言われた 「朱鳥、今からでも一緒に暮らそう? 新しいお父さんも朱鳥のこと、心配してくれてるから…」 パパに頬を撫でられながら言われたけれど、パパの後ろにはあの時の男性がいた 彼の側には、小学生くらいの男の子とまだ幼い女の子が僕を不思議そうに見ている 「あのお兄ちゃんどうしたの?ママ、何で泣いてるの?」 お兄ちゃんの方は7歳か8歳くらいだろう… つまりは……そう言うことなんだと思う 「パパ、ありがとう。でも、大丈夫だから…僕ももう大学生だし…大丈夫」 出来るだけ気丈に振る舞い、微笑んで見せる パパも何かを察しているのか、今にも泣きそうな顔でまた何度も「ごめんなさい」と繰り返していた パパさんが、お父さんに僕はもう戻らないっとことを伝えてくれた お父さんは何も言わなかったらしい 僕のことなんてもう興味がないのか… それとも、最初からどうでもよかったのか… 僕はこのまま家に帰るのを許されなかった 僕はやっとあの家から、あの家族から解放された ずっと元通りになることを望んでいた ずっと、僕のせいで壊れてしまったんだと罪悪感に苛まれていた でも、僕はきっかけに過ぎなかったんだ お父さんはずっと浮気をしていたし、パパもそんなお父さんから逃げたくて仕方なかった とっくの昔に、僕たち家族はバラバラになっていて、僕も早く逃げ出せば良かったんだ 「朱鳥、2人でアパートでも借りない?ここだと好きな時に朱鳥と愛し合えないし…」 照れた顔で僕の手を撫でながら話す麟君 僕の頸には、薄っすら歯型が残っている 僕から彼にお願いした お父さんに抱かれた汚い僕でもいいなら、抱いて欲しいって… 身も心も、麟君の番にして欲しいって… 僕の過去を知っているから、何度も辛くないかって確認されたけど、麟君はすっごく優しく抱いてくれた 壊れ物でも扱うみたいに、大切なモノを触るみたいに… 僕の頸に、彼の番である証を付けてくれた Ωじゃないから、日にちが経てば消えてしまうけれど… それでもいつも愛しげに噛んでくれて、その度に血が滲むと申し訳なさそうにしている 「麟君の側に居れるなら、何処でもいいよ。僕の番は麟君だから…」 あの日から、僕は出来るだけ素直に気持ちを言葉にするようなった 素直に「好き」って言うと麟君は照れながらも嬉しそうに笑ってくれる 頸を噛んで欲しいってお願いすると、少し困った顔で、でもギラギラした目で何度も噛んでくれる 沢山、沢山、愛してくれて、僕の身体を心配してくれる 「俺は離婚なんてしたくなかった!アイツが、皐月(さつき)が出て行ったのが悪い!所詮Ωなんて、誰にでも股を開く淫乱なんだ!!」 麟君と駅前の不動産屋さんに行った時、昼間っからお酒を呑んで暴れていたのか、警察の人に取り押さえられている人を見た 無精髭を生やして、服も汚れていて… あの人とはもう家族でも、知り合いでもない 麟君は僕を隠すようにして、足速にあの場所を立ち去った 「朱鳥、愛してる。早く2人だけで住める場所を探そうか 絶対に、朱鳥を幸せにするから」 照れながらも僕の左手を取って、薬指にキスをする 恥ずかしいけど、嬉しくって 唇の触れた指を愛しげに口付ける マスクで顔を隠すなんて、もうやらない 自分の気持ちは、ちゃんと言葉にする 愛しい人にしかもう抱かれたくない この幸せを手放さない為に、彼と決めた僕の約束 幸せな約束
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