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「パパ、お父さんってやっぱり王子様だったんだね!」
学校から大慌てで走って帰ってきて、興奮が冷めないまま大好きなパパに抱き着いて報告した
肩で息を切らし、耳まで真っ赤になりながらも、目はキラキラと輝いていたと思う
今まで知らなかった大発見をしてしまったから
大好きなお父さんの秘密を知ってしまったから
絶対、パパも驚いてくれるって思っていたから
小学校の帰り道、少し離れた場所に見えるメルヘンなお城
遊園地みたいなキラキラした場所で、学校の帰り道とは違う方向だから近くに行ったコトがない
でも、帰り道に遠くに見えるお城を友だちと眺めながら、どんなアトラクションがあるんだろう?って遠目に見てワクワクしていた
ジェットコースターとかあるかな?
プールは?メリーゴーランドは?
もしかしたら、鏡がいっぱいの迷路とかもあるかも!
友だちとどんな乗り物やアトラクションがあるのか、こんなのあればいいな!っていつも話していた場所
いつか連れて行って貰いたくて、幼かった僕は何度も両親に「連れて行って」とお願いしては困らせていた場所
いつもよりちょっとだけ早く学校が終わって、何となく今日はまだ帰りたくなくて…
友達と別れた後、コッソリお城の前を通って帰ることにした
いつも通る道とは違う景色
知らないお店屋さんの隣を通って、初めて会った猫と遊んで、急な坂道を息を切らしながら登った
遠くに学校の校庭が見えて、なんとなく上級生のお兄ちゃん達が走っているのが見えた
空も青くて、ソフトクリームみたいな雲や飛行機雲が見えて…
僕にとっては大冒険だった
目指すはお城の遊園地!
中に入るのは子どもだけじゃダメだから、そっと入り口から中を覗くだけ
次にお父さんとパパと3人で来た時に、どんな乗り物に乗りたいのかすぐに言えるようにするために、ちょっとだけ覗くだけ…
小高い丘の上にやっと辿り着き、額から流れ落ちる汗を腕で拭う
お城の門には、カーテンみたいな布みたいなモノが掛かっていて何だか思っていた感じとちょっと違った
軽やかな音楽や楽しげな声は聴こえてこない
「遊園地じゃないのかな?」
残念な気持ちになりながらも、中を覗こうと柱の影に立って中を覗く
奥には何台か車があるだけで、それ以外はわからなかった
「お城の中に入らないとわからないのかな?せっかくここまで来たのに…」
唇を尖らせて拗ねていると、一台の車が門から出て来た
見たことのある車
僕の家の車と同じ、夜空のような深い青色の車
僕が「この色がいい!」ってお父さんに言って、二人で選んだ車
何となく、見つかっちゃダメだって思って、建物の周りの植木にしゃがんで隠れた
隠れて、コッソリ車を見ていた
車の運転席を見て僕はビックリしちゃった
お父さんにそっくりな人が運転していたから…
お父さんはお仕事に行ってるはずだから、お城には居ないはずなのに…
お父さんのお仕事の会社はココじゃないはずなのに…
驚いて目をまん丸くして、去って行く車を見つめた
「ん~……すっごい!お父さんすごいっ!!」
お父さんがお城から出て来たことに僕は興奮していた
何だかドキドキして、ワクワクして…
早く帰ってパパに教えてあげなきゃっ!って思ってたんだ
この時、僕は何も分かってなかったんだ
此処がどういう場所で、助手席に座っていた知らない女の人が、お父さんとどういう関係だったのか…
お父さんが何をしていたのか…
小学生だった僕には、何もわからなかった
ただ、今度ココに僕とパパを連れて行ってくれるんだって思っていた
今日はきっと遊びに行く前の下見で、家族三人で遊びに連れて来てくれるんだっ!って…
きっと近々あの憧れの場所に連れて行ってくれるんだっ!って期待していた
だから……走って家に帰ったんだ
期待で目を輝かせながら、息を切らしながらも、パパに抱きついてそのコトを話したんだ
きっと、パパも喜んでくれるって信じてたから…
パパも「楽しみだね」って嬉しそうに笑って言ってくれるって信じてたから…
でも…パパは僕の話を聞いて、目を見開いて驚いていた
僕が「お城まで行って見たんだ!」って言ったら、何故かポロポロと涙を流して泣き出しちゃって…
悔しそうに唇を噛み締めて、畳んでいた洗濯したてのお父さんのワイシャツをギュッて握り締めて…
声を出さずに泣いていた
サプライズだったのかもしれない
僕に見つかっちゃダメだったのかもしれない…
僕が寄り道をしちゃったから…
パパに先に言っちゃったから…
パパは、泣いた後何も言わなかった
黙々と洗濯物を片付けて、僕と二人だけで晩御飯を食べた
いつもだったらお父さんが帰って来るのを待つのに…
二人っきりでご飯を食べて、いつもより早くお風呂に入った
それから、「ごめんね。お父さんとお話し合いしなきゃいけないから、先に寝てて」
笑ってるのに、今にも泣きそうな顔でお願いしてきた
「ごめんね。出来たら、耳をギュッて手で押さえてて…怖い声、聞こえちゃうかもしれないから…」
僕の両耳に手を添えて、何度も「ごめんね」って言って寝室の扉を閉めた
僕が寝ている部屋の隣で、パパとお父さんは喧嘩してた
パパがすっごく怒って泣いてる声が聞こえた
僕は悲しくって、パパとお父さんが喧嘩してる声を聞きたくなくて、パパの言いつけ通り両手で耳を塞いでいた
でも、パパの泣く悲しい声がずっと聴こえてくる
お父さんの怒鳴り声が怖かった
いつも優しいお父さんの声とは全然違った
頭から布団を被って、何度も「ごめんなさい」って謝ったけど、喧嘩の声は酷くなるばかりで…
泣きながら早く仲直りしてくれるのを願った
ごめんなさい
僕が、サプライズを邪魔しちゃったから…
ごめんなさい
僕が、パパに秘密を教えちゃったから…
ごめんなさい
僕が、お城に行っちゃったから……
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