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あの日から、パパも出掛ける日が増えた
僕も3年生になって、一人でお留守番も出来るようになったから
パパも夕方までお仕事に行く日が増えて、ひとりぼっちでお家で待つ日が増えた
お休みの日は、家族みんなで遊びに行ってたのに、お父さんもお仕事が忙しくて家に居ない
パパと二人っきりで遊びに行く日もあったけど、その日もどんどん減ってきて、僕一人だけでお留守番する日が増えた
買って貰ったゲームをしてても楽しくない
友だちと遊んでても、家族みんなで仲良くしているのを見ると胸がチクチクして……
何だか苦しくなって、見たくなくて……
逃げるように家に帰ってしまう
お父さんは、僕のことが嫌いになっちゃったのか、もう遊んでくれない
僕の顔を見ると、怒った顔をして、すぐにどこかに行っちゃって…
それを見て、パパが怒ってた
「朱鳥、ごめんね。ごめんね…」
パパがいつも泣きそうな顔で謝ってきて、ギュッて抱き締めてくれる
でも、パパのそんな顔見たくないな…
前みたいに幸せそうに笑ってて欲しいのに…
僕があの日、パパに言っちゃったから
だから、僕のせいで誰も笑わなくなった
「パパ、どこ行くの?僕も一緒に行きたい!」
大きなキャリーケースを持って玄関を出ようとするパパに無邪気に抱き付く
どこかに出掛けるだけだと思っていた
すぐに帰って来てくれると思っていた
『朱鳥、ごめんね。ホントに、ごめんね…』
ギュッと強く抱き締めてくれながら、ポロポロ泣いていたパパ
どこか怪我してるんじゃないかってくらい、痛そうに顔を歪めて泣いてるから、心配になって僕もパパをギュッて抱き締めた
『朱鳥、ごめんね』
僕の肩を掴んで引き剥がし、そのまま立ち去るパパを追いかけて外に出た
マンションの向かいに、白色のカッコいい車が止まっていて、その隣には背の高い知らない男の人が立っていた
パパはその人の方に駆け寄って、さっきまで泣いてたのに嬉しそうにその人に抱き締められていた
絵本で見た、王子様たちみたいに幸せそうな二人の姿に何故か胸が苦しくなった
お父さん以外の人とパパが軽くキスした後、車に乗って去っていく姿を見た
これが、パパを見た最後の姿
パパの幸せそうな笑顔だった
前に、お父さんを大好きって言ってた時と同じ、すっごく幸せそうな笑顔だった
「朱鳥、お前は本当にお喋りだな…
お前が余計なことを言ったから、パパは出て行ったんだ。
アイツがαなんかの下に行ったのは、パパが出て行ったのは、朱鳥、お前のせいなんだよ」
立ち去ったパパを見つめて立ち竦む僕の背後に、いつの間にかお父さんが立っていた
僕の両肩を掴み、ギリギリと爪を食い込ませながら、怒りを抑えながら言っていた
「お前のせいで、家族がバラバラになったんだよ。全部、朱鳥がお喋りだったせいだ」
抉られるような言葉で胸が痛い
お父さんの悲しそうな声で胸が痛い
僕が、あの日パパに言っちゃったから…
僕が、サプライズをバラしちゃったから…
僕が、パパを傷付けた…
僕のせいで…パパは…お父さんと僕を捨てて、αの下に行ってしまった…
僕が、お喋りだったのが全部、全部…
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