case2 仁科優太の場合

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夜遅く母親も近くにはいない。夜勤の看護師も見回りをしたばかり。落ち着いて彼と話すなら今のうちだ。 僕は優太くんに声をかけた。 彼は起き上がる体力もなく1日のほとんどを横になって過ごしている。 本来なら会話もままならない。 「お兄ちゃん誰?」 「…あれ?お話ししても苦しくない…」 僕には肉体がないからかもしれない。 彼が話しても苦しくないのは。 「もしかして僕死ぬの?」 『…』 「よかった…これでもう苦しくないんだね」 (何言っているんだ?彼は) 「前ね…お友達の来夢くんの部屋に透明な男の人が入るの見たんだ…」 「そしたら来夢くん死んじゃって来夢くんのばあばがもう孫は苦しくないって言ってて」 この子はこんなに小さいのに…僕は悲しくなった。 それでも伝達人の役目を果たさなきゃ…僕は鞄からノートを取り出した。 『優太くん…君が死ぬ前に誰かに伝えたい言葉はあるかな?』 「どういう意味?」 (小さな子供には難しいかな) 僕は目線を優太くんに合わせもう1度質問してみた。 『誰かに言いたい事あるかな?』 「言いたいこと?」 『優太くんが死ぬ前に誰かに言いたい事』 「…おねえちゃん…」 「おねえちゃんに…ごめんなさい言いたいんだ」 ごめんなさい…どういう意味? 僕はノートを開くと『お姉ちゃんのお名前はゆり菜ちゃんだよね』そう伝える。 優太くんは驚いた表情。 「何でわかるの?」 「お兄ちゃんもしかして魔法使い?」 キラキラした瞳の彼に僕は頷く事しか出来なかった。
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