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「えっ?」
「ほら、一ノ瀬くん、部屋を出る直前に七尾くんをからかったでしょう? 『21回目でようやく勝った』って」
もちろん七尾は覚えていた。些細なきっかけだとしても、あれこそが、今までの憎しみを殺意に昇華させる最後のピースだったのかもしれない。
「数学好きな一ノ瀬くんらしいわ。素直に『21』と残すんじゃなくて、わざわざ二進数で『10101』と書くなんて」
「なるほど。『10101』は二進数で『21』ですか……」
感心する刑事に対して、七尾が叫ぶ。
「待ってください! こんなの、こじつけじゃないですか? そもそも、僕にはアリバイが……」
先ほど三木が指摘した点だ。ところが、またもや百池が立ち塞がった。
「確かに七尾くん、悲鳴の瞬間は私たちと一緒だったけど、その少し前にトイレに立ったわよね? あれが本当の犯行時刻だったんじゃないかしら?」
恥ずかしそうに少しだけ声を小さくして、百池が告げる。
「実は私、昔からアニメが好きで、今でも深夜アニメをよく見るんだけど……」
それから元のトーンに戻して、説明を始めた。
一部でカルト的な人気を誇る『魔法少女QQベイビー』というアニメがあるという。ちょうど、あの悲鳴の瞬間に放映されていたはずの番組だ。
「しかも『伝説の悲鳴』回だったの。放映開始21分後に、ものすごくうるさい悲鳴のシーンがあってね。音響監督のミスなのか、あるいは演出なのか、ファンの間でも議論が分かれていて……」
その『放映開始21分後』が、ちょうど四人が悲鳴を聞いたタイミングと一致するのだ。四人が駆けつけた時にテレビは消えていたが、100円だけならば10分で自動的にオフになるのだから、うまく『伝説の悲鳴』の前後だけ流れるように調節するのも、難しくないはず。
それが百池の推理だった。
「そうか、百池さんも『魔法少女QQベイビー』みたいなアニメ、好きだったのか……」
犯行を認めるかのように、そう呟く七尾。
ダイイングメッセージの謎を解き、アリバイトリックまで看破した百池に対して、七尾は怒りや憎しみを覚えることは出来なかった。
むしろ彼の胸を占めるのは、大学時代から抱く、彼女への熱い想い。
同時に、彼は後悔するのだった。
彼女がアニメファンだと知っていたならば、自分もそうだと正直に告げることが出来たのに、と。
共通の趣味があるとなれば、それこそ一ノ瀬より先に、自分の方が彼女と親密になれただろうに、と。
(「ダイイングメッセージ10101」完)
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