ダイイングメッセージ10101

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    「さすが元カノ。昔の一ノ瀬くんのこと、よく知ってるのね。でも今はもう、せっかちな男じゃないのよ?」  ニヤリと笑いながら、万田の言葉を否定したのは、スレンダー美人の百池(ももち)。現在の一ノ瀬の恋人だ。  二人の女性は高校時代からの親友であり、その片方と別れてすぐに、もう片方と一ノ瀬は付き合い始めたのだ。とても七尾には理解できない話だった。  そもそも大学時代、七尾も百池には好意を(いだ)いており「いつか彼女に相応しい男になって告白しよう」と思っていたくらいだ。その百池が、よりにもよって一ノ瀬にとられてしまうとは……。  七尾の心の中で、今さらのように、かつての悔しい気持ちが蘇る。 「まだ遊び足りないというなら、みんなだけで続けてくれたまえ。僕はお先に失礼するよ」  二人の女性の間に流れる険悪な空気を察して、板挟みになるのが嫌だったのかもしれない。一ノ瀬は一人でリビングから退散、二階の寝室へ向かってしまう。 「おやすみー!」 「また明日ー!」  去っていく一ノ瀬に明るく声をかける、恋人の百池と元カノの万田。  こういうところも羨ましい、と七尾は思ってしまった。もしも自分が先に寝るとしたら、彼女たちは、こんな反応を見せてくれるだろうか。無視あるいは「さっさと寝ろ」という態度を示すのではないだろうか。 「じゃあ、四人で遊びましょうか」  と百池が提案するので、七尾はその場に残った。  大学時代ならまだしも、働き出した今となっては、こうして百池さんと一晩中遊べる機会なんて少ない。今日は楽しもう、と考えたのだ。  いつもならば、家で一人寂しく、深夜アニメを見ている時間帯だ。それと比べたら、この状況は天国ではないか!  ここの民泊は部屋が多いので、寝室は五人それぞれ個室だ。それこそ、ここでも部屋で一人で深夜アニメを見ることは可能だが……。  部屋のテレビは、ちょうど昔の旅館みたいに有料制。10分100円という、ぼったくり気味の料金設定だった。その上、今夜の番組は、既にネットの先行放送を視聴済み。ネットでは「秀逸なホラー回」という高評価と「ただ騒々しいだけの駄作」という悪評とで真っ二つなエピソードであり……。 「……ん?」 「どうした、七尾。お前の番だぞ」 「ああ、ごめん」  トランプをしながら考え事をしていた七尾は、三木に促されて、ハートのエースをその場に出す。  ハートといえば心臓、そしてエースは『1』すなわち一ノ瀬。  これも酒の勢いなのだろうか。七尾の頭の中では、まるで悪魔が囁くかのように、恐ろしい計画が出来上がっていた。    
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