SF浦島太郎

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     乙姫に案内されて、竜宮城へ足を踏み入れると、素晴らしい御馳走が並べられていた。  青年にとっては、テレビや雑誌でしか見たことがないような高級料理ばかりだ。勧められるがまま口に入れると、それだけで自然に頬が緩む。生まれて初めての美味だった。  魚や侍女たちが歓迎の踊りを披露する中、青年は料理に舌鼓を打ちながら、乙姫の酌で酒も楽しみ……。  あっという間に数日が過ぎてしまう。ふと彼は冷静になって、彼女に質問した。 「いったい何のために、僕は竜宮城まで呼ばれたのです?」 「地球人の代表として、来ていただいたのですわ」  にっこりと笑いながら、乙姫は説明する。  乙姫たちの種族にとって、星間交流の(かなめ)は、相手の惑星の人々を知ること。だからその星の人間一人を招いて、その代表者を通して『星』を理解するのだという。 「そんな……。ならば無職の僕なんかじゃなく、政府のお偉いさんとか、国連の大使とか、もっと相応しい地位や身分の人がいるはず……」 「あら、それでは駄目ですわ。星の代表者は、あくまでも一般人でなければ」  だからといって、誰でも良いというわけではない。心優しき人間であることが条件であり……。 「あなたの態度を観察させていただきました。合格です」  ただ気ままに飲み食いしていただけなのに、何がどう合格なのか。青年は全く理解できなかったが、それよりも、もっと聞いておくべき点があった。 「合格した僕は、この(あと)、何をすれば良いのです? 地球人の代表として、あなたがたと交流するためには……」 「あら、何も必要ありませんわ。飽きるまで好きなだけ、この星に滞在してください。ただ、それだけです」    
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