SF浦島太郎

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     竜宮城での歓待が一ヶ月ほど続いた後、青年は、傍らに寄り添う乙姫に告げた。 「そろそろ地球へ帰ろうかと思うのですが……」 「ええ、どうぞ」  青年の目に映る乙姫の笑顔は、帰星の決意を吹き飛ばすほど魅力的だったが、それでも彼は思うのだった。  ここで自堕落な生活を続けるのは良くない、と。地球の代表として観察されている以上、そのような『良くない』態度を見せるのは、地球全体の危機に繋がるのではないか、と。 「では、おみやげとして、これをお持ち帰りください」 「……玉手箱ですか」  青年は苦笑いする。  乙姫の『おみやげ』は、弁当箱くらいの大きさの、黒い木箱だった。簡単に開くことのないよう、紐で縛られている。  その見た目から、改めて浦島太郎の昔話を連想したのだ。 「絶対に開けてはいけない、ってやつでしょう?」 「あら、違いますわ。確かに、帰るまでに開けられたら困りますけど……。でも地球に着いたら、どうぞ開けてください。むしろ、中身が必要になるはずですわ。大切な、地球へのお届けものですから」  乙姫の口ぶりから、青年も何となく理解する。  それは本当に『大切な』代物(しろもの)なのだろう、と。彼女はそれほど強く「これを地球まで届けたい」と思っているのだろう、と。    
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