SF浦島太郎

7/8

1人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
     帰りの宇宙船は青年一人であり、同乗者の海亀はいなかった。  自動操縦をセットしておいたので、元の海岸に辿り着くという。 「では、また、お会いしましょう」  別れ際の乙姫の言葉は再会を示唆しており、おおいに青年を喜ばせた。彼は笑顔で、宇宙船に乗り込んで……。  扉が閉じて数分も経たないうちに、合図のブザーが鳴る。地球に帰り着いたのだ。 「はてさて、一ヶ月も留守にしたから、帰ったらまずは部屋の掃除か……」  日常の世界へ戻るつもりで、そう呟きながら、青年は宇宙船の外へ。  ところが、青年を待っていたのは『日常』ではなかった。  目の前に広がるのは、すっかり荒れ果てた大地だった。遠浅だった海岸には、一滴の海の水も見えない。  建物や橋などの人工物は完全に姿を消しているが、左右の山々の形には見覚えがあり、出発地点と同じ場所であることは間違いなかった。 「なんだよ、これ。いったい地球は、どうなっちまったんだ?」  その瞬間、青年は思い出した。SF小説で読んだ、ウラシマ効果という概念を。  原理そのものはSFではなく、現実的な相対性理論だったはず。光速で移動している間は時間が進まないため、宇宙旅行から戻ると地球では、体感時間とは比較にならないほど膨大な時間が過ぎているという。 「じゃあ一ヶ月じゃなく、何年も何十年も、いや、ひょっとしたら何百年も経っちまったのか……?」  唖然とした青年は、おみやげの玉手箱を落としてしまう。  その拍子に紐が解けて、蓋が開き、もうもうと煙が立ちのぼる。だが昔話の浦島太郎とは異なり、青年が老人になることはなかった。煙は風に乗って、ただ広がっていくのだった。    
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加