SF浦島太郎

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    「あの人、大丈夫でしょうか? ちゃんと地球の再生、始めてるでしょうか?」 「帰るまで箱を開けては駄目と言っておきましたからね。もしも言いつけを守らないのであれば、それは自己責任ですよ」  もはや『海亀』と『乙姫』ではなく、二人とも本来の姿に戻っている。  その正体は、黒いガス状の不定形生物だった。  彼らの種族は『宇宙の守護者』を自称している。今回二人が担当したのは、地球という惑星に巨大隕石が衝突する事件。衝突そのものの衝撃だけでなく、それが引き起こす大気汚染により、地球上の生物がほぼ絶滅する、という予測だった。  彼らの科学力ならば、事件を未然に防ぐことも可能だ。だが、それは過干渉に相当するので、禁止されている。『宇宙の守護者』の役割としては、隕石衝突の時期に、地球人一人を代表として保護。代表者を観察して、地球人は救うに値すると判断した場合、環境再生用のアイテムを持たせることだった。  煙として可視化されるほど大量に、浮遊性ナノマシンが詰まった『玉手箱』だ。それも『宇宙の守護者』によってではなく、地球人自身の手で地球まで届けられる必要があった。 「あの人は、この星でしばらく過ごしましたからね。この星の大気を吸って、長命因子を取り込んで、十分に寿命が長くなっているはずです。だから再生作業の時間はたっぷりありますし、その間に、なんとか生存者を見つけられれば……」 「ええ。あの人が現地の生存者たちと接触さえすれば、長命因子も感染するでしょう。そうすれば地球人という種族も、また少しずつ増えていくはずですわ」  だから地球は大丈夫だろう。『乙姫』はそう考えて、部下の『海亀』に告げるのだった。 「さあ、では、次の案件に取り掛かりましょう。今度の惑星は……」 (「SF浦島太郎」完)    
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