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続・猫様01 溜息しか出ない…
…………はぁ、憂鬱だ。
再び下がる俺の目線。
ただ今回は、ほんの少しだけ前回より高い。
声を出してみる。
「ニャーッ」
出てきた声は、予想通りのこんな声。
それも今回は少し、前回より低かった。
…………はぁ、溜息はこの身体でも出せるようだ。
「………ニャフゥ…」
出るのはもはや、溜息ばかり。
自分の身体に目をやると、全身艶のある黒色の毛。
今回の俺は『黒猫』だった。
吾輩の名は、赤崎龍二。
そして今回も、見事に猫に成り下がった。
幸い、今回は成猫。
そして、現場は我が赤崎組の屋敷の中。
俺はいま、食堂の入り口で千鶴が戻ってくるのを待っている。
白戸千鶴。
俺の、何ものにも代え難い唯一。
俺は、厨房の中の千鶴の姿を、ただ視線で追いかける。
千鶴は、何時でも何処でも可愛らしいのだ。
そんな姿を、微笑ましく見ていると、
千鶴は、炊事班の番頭・後藤の横で、弾けるように笑う。
「…」
俺以外の前で、そんな可愛いを振り撒くな…。
と、独占欲が掻き立てられる。
しかし食堂は、千鶴の心を癒やす場でもあると理解しているし、
食堂でのひと時を邪魔すると、千鶴の機嫌がすこぶる悪くなる。
なので、ここはぐっと堪えて耐え忍んだ。
やがて、メシを盆にのせ、千鶴が戻ってきた。
「リュウジ、お待たせ」
「ニャー(大丈夫だ)」
俺は、大丈夫という意思表示として、千鶴の足に尻尾を絡ませる。
「今日は、鯛のアクアパッツァを後藤さんが作ってくれたよ」
「ニャァ(それは豪勢だな)」
「ふふ。私も同じものを作って貰ったから、一緒に食べよう」
「ニャー(分かった)」
千鶴と並んで歩きながら、部屋へと向かった。
今回は、いつまでこの姿なのかと、心底ウンザリするが、
千鶴が何かと、今の俺を離そうとしないので、
これはこれで役得だ。
千鶴の温かい懐で、
俺は、二回目の猫姿を、
半ば諦めの気持ちで過ごす事にした。
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