続・猫様05 天敵再び

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続・猫様05 天敵再び

 翌朝、いつものように起きた千鶴は、龍二とともに食堂にやって来た。 「リュウジはここで待っててね?」 「ニャー(分かった)」  返事をすると、千鶴が柔らかい笑みを浮かべて龍二を撫で、  既に食堂で作業をしている、後藤の元へ向かっていった。  奥の方から、千鶴と後藤の会話が聞こえてくる。  今日も後藤は、千鶴の質問攻めに、優しく応えていた。  こうして千鶴が食堂で過ごす時間を、  龍二は時々、食堂で眺めていた。  自分の傍で、自然に零れる笑みとは、また少し違う、  千鶴が信頼する人間の前だけで出る笑み。  それが時々、龍二の独占欲を刺激するのだが、  やはり、屋敷の『家族』を受け入れてくれた千鶴が見せる、その笑みは、  龍二にとっても嬉しく、可愛らしい事。なので、  あー…、可愛い。  自然と心の中でデレる。  そうやって、千鶴を堪能していた龍二は、  今の自分とって、とても厄介な天敵の接近に気付かなかった。  ズーズン―…。  ぱたぱたと、可愛い足音が近づいてくる。  ズーズン―…。  昨日、慎治と散々ゲームを楽しみ、体と頭を動かし、  朝までぐっすり眠った、体力ゲージMAXの龍希が、  慎治に手を引かれ、食堂にやって来た。  ズーズン…、ズーズン…、ズンズンズンズン……。  サメ映画の音楽が響きそうな、そんな空気が屋敷の廊下に吹き荒れる。  角を曲がり、龍希が慎治に伴われ、食堂に続く廊下に姿を現す。  真っ直ぐ見据える龍希の瞳が、食堂の入り口を視認する。  そして、そこに見えた黒い物体。  キラリッ!  龍希の瞳がキラッキラに輝くと、慎治の制止も間に合わない、  3歳児のスピードとは思えないほどの素早さで、  まっすぐに黒猫龍二に突進してきた。 「龍希!! 危ないから走るな!!」  聞こえた慎治の声に龍二が振り返ると、目の前には既に龍希がいて、 「……ニ゛ャッ(龍希!?)」 「ねっこたーーーん!!!!」  龍希が黒猫龍二に、まっすぐ飛び掛かってきた。  龍二は、昨日のように抱き潰されては堪らないと、  突進してきた龍希をひらりと躱したのだが、  しなやかな長い尻尾がその場に残り、  龍二の身体を捕まえられなかった龍希の小さな手が、  その尻尾を力いっぱいに鷲掴んだ。  龍希の手の中で、龍二の尻尾が波打っている。  その形に変形されそうなほど握り潰されて、  龍二は、思わず絶叫した。 「ニ゛ャァァアァッッ(ぐわぁぁぁっ)」  龍二は、龍希に尻尾を握りしめられたまま、  追い駆けてくる慎治を翻弄しながら走り回られ、  結果、屋敷中を引き回しにあってしまった。
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