捨ててません、人間は

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捨ててません、人間は

 大型の電気屋のエアコンの利いた店内に並ぶ……テレビの一台が世界清潔都市にも指定をされているキレイ町の特集を放送していた。  テレビの中のスーツ姿の茶髪の女性が、キレイ町のスポットの一つであるカエデ公園を紹介中。  ゴミ箱には空き缶の一つさえ入っておらずトイレの床も鏡のようにピカピカ。掃除道具も汚れていなかった。    この辺りに暮らす方々も清く真面目な人間が多く奇麗好き。潔癖症だと言われても、軽く笑い飛ばすほどにおおらかだとナレーションが説明している。 「わたしもここに住んでみたいですね」 「どうぞどうぞ、わたしたちはいつでもどなたでも歓迎しますよ」  そこで放送は終わった。 「なにこれ」  テレビの仕事が終わり、自宅の扉の前に置かれているダンボールを茶髪の女性は見つけた。置き配をした記憶もないようで彼女は首を傾げている。  ダンボールは大きさのわりに軽かった。  中身は空っぽではなく……よく見ると数本の茶色の髪の毛が入っていた。 「気色悪い」  そう言って、茶髪の女性はダンボールを畳んだ。 「●●さん、引っ越したんですよね」  突然……同僚の一人にそう言われて茶髪の女性は驚きながらも否定をした。 「えーっ。でも、この前キレイ町に●●さんが引っ越したとか噂されていましたよ」  さらに話を聞くと茶髪の女性のことをよく思っていない同期の男の仕業だと分かった。 「あの人、最近とくに●●さんにつっかかってきてませんか。テレビの露出が増えたからとかだったりして」 「プライドが高いのも考えものね……縁が切れないかしら、スパッと。もしくはゴミ箱にでも捨てたいわ」 「そういえば人間関係を整理整頓することができるパワースポットが近くにできたらしいですよ」 「パワースポットは自然発生するものであって人工的につくれないんじゃ」 「細かいことは気にしない」  と同僚が笑っていた。 「まただわ」  いつぞやと同じように、自宅の前にダンボールが置かれている。中身は数本の髪の毛ではなく、コーヒーの空き缶や弁当容器……バランや割り箸が。 「これって、今日のお昼に捨てたものばかり」  わざわざ……これらを拾い、ダンボールに詰めて玄関の扉に置いたであろう犯人を想像してか茶髪の女性が身震いする。 「お届けものです」  声のしたほうに茶髪の女性が振り向く。玄関の扉の前に置いてあるダンボールと全く同じ種類のものを抱えた男の配達員が立っていた。 「あの、ハンコとか」  茶髪の女性に声をかけられても反応せず、配達員は彼女の目の前にダンボールを置くとエレベーターのある方向へと移動してしまった。  中身は血まみれのナイフと同期の男だった。 「そうですね……キレイ町にルールがあるとすればゴミの分別ですかね。ええ 「この町に、いや……この地球の表面に住まわせてもらっている以上はゴミの分別はきっちりしてもらわないと 「ええ、町とかは関係ありません。このキレイ町に住みたいと思ってもらえた時点でルール違反は絶対に許されません。例外もありませんよ 「人間の処分方法ですか……地域によりますがこの辺りだと焼いてもらわないと 「ぴーあーる? んー、そうですね。このキレイ町を愛する気持ちの全てをこのテレビを見ている方々の一人でも多くに届いてくれれば満足ですかな」
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