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【3】
「元気出せ、っても無理だよね。──桜木、ケーキビュッフェ行かない?」
視線を落としたまま廊下に出た絋哉を待ち構えていたかのような美波に、突然意味不明の誘いを掛けられる。
「園部。なんでケーキ……」
「フツーのビュッフェでも何でもいいけど。だってあたしたち、まだ飲みに行けないじゃん。『お酒は二十歳になってから』だしさ」
「そうだな、俺もケーキ久しぶりに食いたくなった。駅前のあの店だよな? よし、行こっか!」
友人の気遣いを無駄にしたくなくて、絋哉は虚勢を張って明るい声を上げた。
きっと彼女には見透かされているのもわかっている。
「あんたも甘いもの好きでしょ? 思いっきり食べよ! ──何か一つ満たされるとさ、その分他の悩みが減る気がするんだ。あたしの経験」
「単純だな。羨ましーわ」
憎まれ口を叩きながらも、本当に心配して思いやってくれているのだろう美波に心の中で手を合わせた。
「そう、あたしの行動理念はシンプルなの。だからこんな絶好の機会は逃さないよ!」
意味ありげな言葉と共にふわっと笑った彼女が、くるりと身を翻す。
「え、……え、あの。園部──」
まさか。しかし「絶好の機会」に他の意味が探せない。
「ほら、桜木! 早くぅ!」
混乱のあまり硬直した絋哉に、先を行く美波が振り返って手招きしている。
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