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「い、井上さん! どんな小説読んでんの?」
その様子を目にして、紘哉は咄嗟に口が動き杏理に声を掛けていた。
「俺、ノベルゲー、ってわかるかな? 小説とゲーム合わせたみたいなやつ。そういうのも好きだからすげー興味ある!」
「えっと。わたし結構雑食だから何でも読むの。あんまりどぎついのはちょっと……、だけど。今はこんなの、とか」
彼女がバッグから取り出したのは、布製カバーの掛かった大きめの書籍だった。ソフトカバーと呼ばれるものだろう。
紘哉はまったく小説を読まないわけではない。
ゲームがメインの趣味なのは間違いないけれど、中高生の頃は所謂『ライトノベル』もよく読んでいた。
今は大判のソフトカバーも多いが、紘哉の好みの作品は古参の部類になる文庫レーベルに多かったためほぼ文庫のみだ。
「えー、それどういうお話?」
横から乗り出した麻由の問いに、杏理が楽しそうに話し出した。
「ざっくり言うと異世界ファンタジーかな。普通の女の子が頑張って仲間増やして成長してく話。流行りの転生モノとかじゃなくってあんまり同じ好みの人に会えないんだけど、わたしはすごくいいな、って」
好きなものを語るときに特有の、全身から溢れる高揚感と輝く瞳。
紘哉の好きな彼女の、おそらくは最も魅力的な姿に胸がときめく。
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