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「あ、あの! もしよかったら俺に本貸してくれない? なんでもいいんだ。井上さんがいいと思うのを。俺、最近小説読んでなくて何から手つけていいかわかんねえから」  きっかけが欲しかった。彼女とただのクラスメイトだけではない関係になるための、何か。  待ち続けたチャンス到来に、紘哉は早口が止まらなかった。 「だったらこれ読む?」 「え? でも井上さん、今読んでる途中じゃ……」  片手で持った小説を示しながらの杏理の提案に、しどろもどろに返す。 「今朝、学校来て講義始まるまでの間に読み終わったの。シリーズだけど一冊完結で途中からでも読めるよ。でも、最初からの方が世界観とかキャラの繋がりとかわかりやすいのは確かだし。明日、一巻目持って来ようか?」 「あー、その。とりあえずこれ借りていい?」 「うん、いいよ。気に入ったら最初のから貸すね」  笑顔で言い添えて彼女が渡してくれた本を、紘哉は両手で受け取った。 「なーんだ、だったらしばらくゲームはお預け? せっかく桜木と趣味のこともいろいろ話せると思ったのに~」 「いや、うん。……スマホゲーって結局一人でやるし、話くらい休み時間でもいつでもできるからさ──」  言葉とは裏腹に、屈託のない笑顔の美波に半ば上の空で答える。  絋哉の意識は、手にした重みにすべて奪われていた。
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