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【2】
「なあ、コウ。お前なんかやった?」
「は!? 何、ってナニ?」
朝一の講義で会うなり訊かれて意味もわからず問い返した紘哉に、友人の真人の話は衝撃でしかなかった。
「いや、クラスの女の子たちが『桜木くんてちょっとどうかと思う』って喋ってんの聞いたから。俺はコウのことすごい性格いい奴だと思ってるし、なんかあったのかなって」
いったい何のことだ? まるで見当さえつけられない。
「……別に心当たりはない、けど」
紘哉は自分を面白味のない生真面目な人間だと思っていた。
特別優れた部分はないと自覚しているし、誠実さだけが取り柄だとさえ考えていたくらいだ。
実際に、ここ最近どころか大学入学以来誰かとトラブルを起こした覚えもなかった。
何があったのか、紘哉の方こそ教えて欲しい。
「あ、井上さん。英語の──」
真人と別れて向かった二限目の講義室。一限をその部屋で受けていたらしい杏理を見つけ、紘哉は彼女に話し掛けようとした。
「……桜木くん」
「杏理ちゃん、次一緒だよね⁉ さ、行こ!」
しかし、杏理の声に被せるように横から麻由が彼女の腕を取る。
紘哉を睨みつけたかと思うとパっと目を逸らした麻由が、想い人を連れて去って行った。
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