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セーラー服を探し出せ
「あらまあ、懐かしいわね」
「ほかにも文化祭のときの写真ありますよね? 見せてくれませんか?」
屋敷に帰るなり写真を荒井に見せると彼女が朗らかに笑う。侑奈が前のめりに身を乗り出すと、彼女が小さく首を横に振った。
「それが……坊ちゃんったら写真を撮らせてくれなかったらしいのよ。『多喜子には撮らせるのに……』って玲子さまがぼやいていらっしゃったわ」
「それは残念ですね……」
侑奈や兄が玲子に弱いように、隆文はうちの祖母に弱いらしい。
(ということは、もらった写真が全部なんだ……)
揶揄うときに隆文に取り上げられないようにしなければと写真を胸に抱くと、背後から覗き込んできた先輩メイドの上原が明るい声を出す。
「懐かしいわねぇ。あのときの坊ちゃんったら、すごく恥ずかしがってて可愛かったわ~」
「上原さん、文化祭に行ったんですか?」
「ええ。絶対来るなって言われたから、何かあるんだと思って後輩を引き連れて行ってあげたの。私たちの顔を見たときの坊ちゃんの顔ったら、今思い出しただけでも笑えてくるわ」
そう言ってケラケラ笑う上原に、侑奈は羨ましげな視線を向けた。
「私も嫌がってばかりいないで行けばよかったです。写真じゃなくて直接隆文の女装を見たかったな……」
「なら、着てもらえばいいじゃないの。確か坊ちゃんが蔵に隠していたから、蔵に行けばまだあるはずよ」
ショボンと肩を落としたときに放たれた上原の言葉にパアッと心が華やぐ。侑奈は意気揚々と上原の案内で敷地内にある土蔵へ向かった。
(やったぁ、嬉しいわ。写真は大切に隠しておいて、隆文にはセーラー服を見せましょう)
着てほしいと迫ったときの隆文の嫌な顔が手に取るように想像できて、すごく楽しい。
侑奈はスキップしながら、蔵の中に入っていった。
中は薄暗くひやっとしている。
貴重なものがたくさん保管されているので、あまり触らないようにしなければと思い、キョロキョロと見回す。すると、上原が電気をつけてくれた。
「時代がバラバラに保管されていて、いまいち分かりづらいから気をつけてね」
「はい」
「鹿鳴館のパーティーで玲子さまのおばあさまが着たドレスもあるらしいのよ。あ、これ当時の写真がおさめられたアルバムよ」
「わぁ! 玲子さんのおばあさまも綺麗な方だったんですね」
上原が開いたアルバムを興味津々に覗き込み、侑奈は感嘆の声を上げる。
そこには玲子の祖母が、凛とした表情で写っていた。西洋のドレスと日本の着物の美しさが見事に融合した夜会服が、より彼女の魅力を引き立てているように見える。カラー写真だったら、さらに美しさが手に取るように分かっただろう。
(隣に写っているのが玲子さんのおじいさまかしら。隆文にめちゃくちゃ似てる……)
隆文からすれば高祖父にあたるのだから似ていて当たり前なのだが、それにしてもよく似ている。
侑奈はアルバムのページを捲りながら、ポツリとこぼした。
「思い出深い品を、こんなところで眠らせておくのはもったいないですね」
「それはそうだけど……しまっとかないと、母屋のほうが片づかないから仕方ないわよ」
「まあ確かに……」
ちなみに我が家にあった資産価値のある着物やドレスは、家業を始めるときにお金に変えたり、美術館や博物館などに寄贈したりしたらしく残っていないと祖母が言っていた。
(少しくらいは残しておいて良かったのにと思うけど……)
祖父母の大切な品は後世に残せたらいいなと考えていると、上原が興味津々な表情で侑奈の肩を叩いた。
「そんなことより四條家より歴史の古い花秋さんのおうちの蔵のほうが貴重なものがありそうだわ。確か藤原四家の流れを汲むお公家様よね?」
「ええ。といっても没落してますが」
侑奈は入り口付近に積まれた比較的新しい箱を開けながら苦笑した。
応仁の乱以降、先祖が生き延びる道を模索した結果が、今の家業だ。『家柄や血統では米俵は買えない』という先祖の教えが残っているあたり、華々しい時代より苦しい時代のほうが長かったのだと思う。
(まあだからこそ、うちの家系は仕事大好きなのよね)
「そう? 充分盛えているように思うけど」
「それは家業を頑張って盛り返したからです。一度地まで落ちているせいか、貪欲なんですよ、うち」
「あら、歴史が長いと苦労も多いのねぇ」
上原と昔話をしながら、二個目、三個目の箱を開けていく。
(ここらへんのものは新しそうだし、きっとあるならこの中だと思うのよね)
「あ! みーつけた!」
四つめの箱を開けたときに、乱雑に押し込められた衣服が目に入る。
おそらく隆文が隠すように放り込んだのだろう。
侑奈が見つけたそれを手に取ってご満悦の表情を浮かべていると、上原が困り顔で笑った。
「あらあら、しわくちゃね。坊ちゃんったら、ちゃんとたたんでしまわないんだから困っちゃうわ。花秋さん、少し埃っぽいからセーラー服を洗濯しているうちにシャワーを浴びちゃいましょうか」
「はい」
その後、侑奈はうきうきでシャワーを浴び、洗濯を完了させた。
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