酔っ払い(隆文視点)

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酔っ払い(隆文視点)

(困った……)  隆文は酔っ払った侑奈を自室のベッドに転がし、溜息をついた。  侑奈は酒を二杯飲んだだけで、かなり酔ってしまったようで、先ほどまで気持ち悪いと大騒ぎだったのだ。吐いてしまった彼女を介抱し、メイクを落としスキンケアや歯磨きまでして、やっと一息つく。 「サワーを二杯飲んだくらいで酔っ払うなよな」  隆文の膝を枕にしてすやすやと眠る彼女の頬を摘む。すると、彼女は眉間に皺を寄せてうなされ始めたので、手を離した。 (もう絶対飲まさねぇ。はぁっ、それにしても危機感なさすぎだろ)  嫌いな男から友達に昇格できたのは良かったが、如何せんまったく警戒されていないように感じる。  隆文はまた深い溜息をついた。 「侑奈。おーい、侑奈ちゃーん。寝るなら自分の部屋に行け。このままここにいたら襲うぞ」 「無理……です。もう動けない……」   うーんと唸りながら返事をする侑奈に、顔を引き攣らせる。 (俺のこと、少しくらい意識しろよ) 「じゃあ犯すぞ?」 「……私が嫌なことは絶対しないって言ったから……隆文くんは大丈夫です」 「……っ」  眠そうな目を開けて不敵に笑う彼女に、心臓が鷲掴まれる。 (くそっ、むかつく女だな)  過去の後悔から、隆文が何もしてこないと踏んでいるのだろうが、まったくその通りで腹が立つ。 「馬鹿侑奈」  もう規則正しい寝息を立て始めた侑奈の頬を両手で挟み込む。 (俺が下心なく優しくしていると本気で思ってるのか?)  それとも隆文の忍耐を試しているのだろうか。 「キスくらいはしていいかな」  彼女の唇をゆるくなぞりながら自問し、慌ててかぶりを振る。  押し倒して唇を奪って、自分の想いを刻みつけられたらどれほどいいか。頬を上気させ涙をいっぱい溜めた瞳で、自分を見つめてくる侑奈を想像しただけで下半身に熱が集まってくる。  侑奈は泣き顔が最高に可愛いのだ。  だが、それを見たいために手を出したら、子供のときと何ら変わらない。彼女も次こそは絶対に許してくれないだろう。 「ああもう!」 (このまま一緒にいたら駄目だ。変な気を起こしそうになる)  隆文は己の髪をぐしゃぐしゃと掻きむしって、よく寝ている侑奈の頬を軽く叩いた。 「侑奈、部屋まで運ぶために抱き上げるから暴れるなよ」 「やだぁ」  声をかけて抱き上げたのと同時に、目を開けた侑奈がこちらに思いっきり体重を預けてきた。途端、バランスを崩す。 「っ! お、おい、こら。暴れるなって言っ……うわっ」 「あはは」  二人して盛大に転ぶ。ベッドが受け止めてくれたのが幸いだが、仰向けに寝そべった隆文の上に侑奈が乗る形になっている。先ほどよりも状況が悪い。 「侑奈、頼むから部屋に戻ってくれ」 「嫌」  そう言って、隆文に抱きついて寝出した侑奈に、血の気が引いていく。 「嘘だろ、朝までこれ?」 (こんなの拷問じゃないか……)
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