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食事を終え、再び進行を開始する。小刻みに休んでは進み、時々蹲っては堪えた。
内臓の痛みが、日を減るごとに増していく。ただ、慣れた痛みであり過剰に反応せずには済んだ。
大きな町ゆえ何度か宿泊し、命を短くしていった。
左側のアムルが、無人の地を見回す。看板を見つけたのか、指を指した。
「もう少し歩けば町の端に着くよ。そうだ、次の移動手段なんだけど、もう一度馬車に乗れそう?」
「……怖いですけど大丈夫です」
「宿の人が言ってたんだけど、ここは送迎も職業の一種らしくて。丁寧に運転してくれると思うって」
「そうですか……」
僕の為、移動手段の調査をしてくれたのだろう。
旅の中、幾つの努力が隠れているか僕には計れなかった。答えを見出せたとて、謝礼の一つすら返せないのだが。
出来ることがあるならば、諦めないことだけだ。
二人同時に角を曲がる。瞬間、飛び込んできた物体に体が反応した。全身が圧縮にあう感覚が駆ける。
アムルの手の平が視界を遮った。だが、遅かった。
蹲り、突き上がってきた吐き気を堪える。空に残したアムルの手が、素早く背中へ移動してきた。顔を包むよう抱き寄せられる。
「ごめんな、もっと早く気付けば良かった……」
見開かれた瞳、腫らした顔、捻れて曲がった細い手足――あったのは少女の遺体だった。
仰向けで、体の半分ほどを花壇に寝かせていた。花壇も花も崩壊していた。
転落事故のようなそれが、殺人だと判断するのに理屈は要らなかった。
十年以上も前の記憶が、鮮やかに咲き乱れる。この目に刻まれた、幾度もの悲劇が心臓を突いた。
体が震える。息が上がる。角膜に焼き付いた姿が霞まない。光に輝いた、青の色がくすまない。
「この先で少し休もう。それで気持ちが落ち着いたら馬車に乗ろう」
アムルが僕を抱えあげた。器用に横抱きへと整えられ、連行される。興奮を続ける本能が、帽子を整えさせた。
髪と目が、光で青色を見せるだけ。それだけなのに。僕らは、生きることさえ許されないんだ。
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