一つ目の町

5/8
前へ
/52ページ
次へ
「僕らはどこにいるんですか?」 「ここだよ。この町の中にいる」 「あの施設は?」 「載ってはいないけどこの辺りかな」  的確に指をさされ、点と点を視線で結ぶ。一つの町が、小さな点になってしまうのだ。恐らく、距離はあるのだろう。しかし、それでも短さに不安が煽られた。 「地図で見ると近そうだけど、実際は大分距離があるよ」 「そうなんですか……」  だが、アムルは読み取ったのだろう。自然とフォローを入れてきた。  指先が反対側へも線を引く。最終的に行き着いたのは、字も囲いもない白紙の上だった。施設と現在地の五倍はありそうだ。 「南へ進んだ先の、ここが海みたいだね」 「……遠いんですね」 「まぁなんとかなるよ」  ルートを確認しているのか、アムルは地図と睨みあう。僕も一緒に睨んでみたが、早々に離脱した。  ぼんやりと地図全体を見る。僕が知るのは、どこにあるかも分からない故郷と、地図にない施設だけだ。地図の上には、どれほどの未知が眠るのだろう。 「……世界って広いんですね」 「これは一部だけどね。あ、お腹空いただろう。パンを買ったんだった」  地図を広げたまま、アムルは鞄からパンを出した。白くふっくらと丸みある姿は、知っているものと全く違う。買っている時も、なんだろうと思っていた。  不思議そうに見つめる僕に、アムルはこれが本来の姿だよ、と笑った。
/52ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加