一つ目の町

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 心地よい揺れが伝わってくる。すぐに到着すると思っていたが、目的地は中々現れなかった。  昨日のダメージが浸透してきたのか、段々力が抜けてくる。だが、眠りへの落下だけは遠ざけた。  何より、アムルに無理をさせて、自分だけが経過を素通りなんて出来ない。当然のように、アムルは睡眠を推奨してくれたが。 「おっ、着いた」  声で、虚ろと化していた視界を取り戻す。目の前には空間が広がっていた。町と外を隔てるように、幾つもの馬車が列を作っている。  同じ外装のものばかりで、所有者にしか区別できなさそうだ。多くの人間が荷を積んだり、交渉したりしていた。  テント街に匹敵する密度に、本能が恐怖を覚える。だが、アムルはものともせず突っ込んでいった。  声をかけながら進む。荷物で満杯だったり、方向が違ったりとで何度か断られていた。 「南へ行くならあの馬車が良いだろう。帰りとも言ってたしな。おーい、乗せてってやってくれ!」 「どうぞー」  だが、機転を利かせた男が紹介してくれた。少し遠くの馬車を指差す。  軽く会釈をし、アムルが小走りを始めた。小さな安堵が胸に落ちてくる――のも束の間、子どもが目の前に飛び出してくる。  そのまま衝突され、バランスが崩れた。次の瞬間、悲鳴が上がった。  瞬間的に頭を押さえる。しかし、僕を守る盾はない。探すと、真横に落下していた。  すぐさま拾い、急いで被る。しかし、間に合わなかった。  害虫を見るような目が刺さる。光の加減か、黒い穴に睨まれている感覚になった。  アムルが立ち上がり、僕を抱えあげる。宛でもあるのか、まっすぐ駆け出した。  速度をあげる心音に混じり、声が鼓膜に貼り付いてくる。  何でこんなところにいるんだ! ウオノケは全員死ね! 早く捕まえろ! 呪われる! 何て恐ろしい目なの? 滅びろ! 気持ちが悪い! 殺せ! 今すぐに殺せ!  ああ、やっぱり僕は何も願うべきじゃなかった。
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