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二つ目の町
はっと目を覚ます。漆黒に染まる部屋は、一瞬死後の世界を描かせた。
背中が不安定な場所にくっついている。だが、ベッドの上だと判断するのに時間は掛からなかった。
体を持ち上げ、アムルの姿を探す。しかし、闇に阻まれた。
不意に、目の前に数多の黒い穴が浮かぶ。闇より深い黒は、僕の体を縛り付けた。
お前に居場所なんてない――どこからか響く声で、涙が生まれる。承知済みの現実があまりに痛く、涙は嗚咽にまで発展した。
息を殺そうと努め、強く噎せる。
「ツヅキくん!」
急に尻が沈み、背中に手が宛がわれた。瞬間、黒い穴が消えて行く。
代わりを担うよう、今さら馬車での会話が染みてきた。
まず、意識が切れる直前の言葉が。次に、僕への思いを詰め込んだような言葉が――開花する感情が、発言を促す。
「……帰りましょう」
「えっ」
「やっぱり、海なんて見られない気がします」
細い息を繋ぎながら、枯れた声で告げた。アムルの顔は、影に溶けて見えない。しかしきっと、描く通りのはずだ。
次に大きな出来事があれば、恐らく僕は死ぬ。なかったとしても、旅を続ければアムルは苦難に踏まれ続ける。共に捕まれば、共犯者扱いは必須だろう。
僕は、終わりがあるから何とでもなる。しかし、アムルの人生はその先にも続くのだ。一生逃亡生活を負わせるのは堪らない。
僕が弱味を握って、彼に外へと誘導させました――そう理由付け、自ら戻れば回避できるかもしれない。
「それに、死ぬなら一思いに死にたい」
思惑の代わり、自己中心的な理由を外に出した。九十七パーセントほどは真実だ。最期を刃に委ねていれば、楽だったと強く思う。未練も惜しさもあるけれど。
「じゃあ死ぬか?」
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