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「えっ」
「ツヅキくんが心の底から願うなら、今ここで殺してあげるよ」
囁かれる声は、酷く透き通っていた。普段の言葉選びとは、かけ離れた単語に気を取られてしまう。だが。
「でもね、私も海を見たい。だからツヅキくんが少しでも死にたくないと思うなら、最期まで付き合ってくれないか?」
隠しきれない意図が滲んでしまっている。やはり、彼の言葉の軸は、優しさで出来ているようだ。
発言の真偽は確かめられない。しかし、彼にとっての海に、苦痛以上の価値があるとは思えなかった。
「……なんでそこまで……アムルさんは僕が不気味じゃないんですか……」
「そうだな、正直言うと最初は怖かったよ。でも今は君自身も好きになったし、その目も髪も綺麗だと思う」
即答は、建前の可能性を否定する。事実、同族以外で素直に目を見てくれたのは彼だけだった。
「それに私にはね、もう顧みるようなものは何もないんだ……少し私の話をしても?」
「……はい」
長くなるからと、アムルは僕の体を誘導した。膝に誘われた頭を、優しく撫でてくれる。
不思議と体は大人しくなり、呼吸も少し楽になった。気付けば涙も消えていた。
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