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毎日ベッドと繋がっていた体だ。長時間動かし続けようなんて、普通に考えれば無謀でしかない。それどころか、動き続けていることがもう奇跡だろう。
突然心臓が止まっても可笑しくはないのだ。なのに歩いている。進んでいる。やはり僕の体は特殊なのかもしれない。
未だ、この身に抱くのは否定ばかりだ。ただ少しだけ、現段階に到達するためのものだったのではとも思う。
一つ前の町よりも、視線はかなり少なかった。しかし、トラウマとなったのか体がすくむ。
アムルは歩幅を小さくし、追える速度で影を作ってくれた。その踵を捉えながら、一心に付いてゆく。
「ツヅキくん、横見てる?」
方向まで的確に示され、そっと顔を右へと傾けた。
動き続ける世界の中、カラフルな色が飛び込んでくる。道沿いに花が植えられていた。石作りの花壇の中、押し合っている。
「……今見ました。綺麗です」
「この町にいる人は、皆この花に夢中さ」
発言の意味を捉え、少しだけ上にも顔を傾ける。実際に誰とも――アムルとさえ目が合わなかった。アムルは愛しそうに花壇を眺めている。
怯えてばかりでは駄目だ。我ながら似合わない意識が、伏し目がちながら人々へと視線を向けさせる。
やはり、最初に引かれるのは部位の色だ。しかし、何人か見るうち、格好が少しずつ違うことに気付いた。旅行者が多いのかもしれない。
「あそこでパンでも買って少し休もうか」
声かけで、意識が内へと戻った。アムルは、斜め右側のパン屋を指している。
向けられる無償の微笑みに、父親を重ねた。とは言え、実の父については全く覚えていない。
アムルが実の父親で、僕が本当の息子だったら。そしたらきっと、世界一幸せだった。
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