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人気のない場所を探しだし、横並びで座り込む。町全体が花好きなのか、裏道にも花畑が作られていた。
パン屋にて、アムルが調達してきたのはサンドイッチだった。高価そうな具材が挟まれている。
よぎっては流していた疑問を、今日だけは引き留めることにした。
「あの……お金……」
「ああ、大丈夫だ。ツヅキくんは気にしないでくれ」
「気にします。僕、お金に詳しくないけどたくさん使ってくれてるのは分かります。なくなったら困るものっていうのもちゃんと知ってます」
働かなければ調達は不可能――いわゆる尽きれば終わりであるとも。
濁しきれないと判断したのだろう。何度か辺りを見回すと、鞄をそっと開けた。
取り出さないまま、器用に財布を開いてくれる。中には、多くの札が挟まっていた。
「サンドイッチ千個は買えるかな」
「そ、そんなに……」
「昔の名残でね。病院で娘に付き添う妻から、時々頼まれごとをすることがあって。その時、何にでも対応できるようにって全財産を突っ込んで持ち歩いてたんだ」
転職してからは、財布に入るだけになったけど――アムルは寂しげに、しかし誇らしげに語る。
桁の大きさにより、近くを彷徨いていた不安は遠退いた。それでも、消え去らない訳ではない。
「それでも、ちゃんと残しておいて下さいね……」
僕が死んでからも、貴方は生きなきゃいけないのだから――とは、さすがに続けられなかった。
知ってか知らずか、アムルは無言で微笑んだ。
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