施設

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 ここは、辺鄙な地にある実験施設だ。毒による身体反応を調査したり、体を切って体液を採取されたりする。  ただ、生身を弄る割に設備は整っていなかった。  掃除されない部屋に汚れたシーツ。部屋に監視カメラはなく、散策可能な庭には警備員すらいない。広い庭の端は知らないが、檻がある話は聞いたことがなかった。  それでも僕が逃げないのは、境界線の外に居場所がないと知っているからだ。  日光で青色に光る髪と瞳。それは異端の象徴として、僕らを囲われた存在にした。  僕らのような人間は“ウオノケ”と呼ばれ、迫害の的にされた。ご先祖も忘れるような遠い昔、相当な悪行をしたそうだ。  そんな僕たちに見出された価値は、憎くもこの体内にあった。  具体的には知らないが、特殊な血液が流れているらしい。そもそもの体の作りが違うとも、どこかで耳に挟んだ。実証されていないとも聞いたけれど。  そこに目を付けたのだろう。国の人間は隅で生きる僕らを捕らえ、実験施設に投げ込んだ。  苦しい逃亡生活の末、七歳で連れ込まれ十年になる。体が限界を迎えて数年、いつか見限られるとは思っていた。 『アムル、アレは明日処分しろ』  どこかに大切な本を置いてきたらしく、廊下へ探しに出た時だった。その瞬間、僕の終わりは確定した。
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