三つ目の町

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三つ目の町

 馬車に揺られながら、壁に身を委ねる。送迎用だからか、座席が用意されていた。  真っ黒な床に、遺体が投影される。見たくないのに、瞳が勝手に見せてきた。  月光まで、窓から僕をからかう。空間には今二人きりだ。なのに光を許せなかった。  あの後、僕らは乗り場に直行した。僕が自らの意思で、休憩の提案を退けたのだ。他の理由もあったが、何より国に留まりたくなかった。  乗車の際、病持ちだと説明したからか、馬車の揺れは抑えられている。  五時間ほど僕を見ていたアムルも、心地よい揺れに負けてか眠り込んでいた。  いや、単純に疲れもあるだろう。彼が目覚めたのは、到達の通知を受けた時だった。   「ごめんな、すっかり眠ってしまったよ」  苦笑するアムルに対し、返すべき答えと表情を探してしまう。だが、言葉はバラバラになり、上手く練りあがらなかった。  自分がどんな顔をしているかさえ掴めない。アムルは無言に焦る僕の手を引いた。 「ツヅキくん、今度こそ少し休んでから行こうか」  誘導された先は、大通りから少し離れた場所だった。詰められたように並ぶ建物が、濃い日影を生み出している。簡単な迷路のような地形だからか、無機物以外何もなかった。  珍しい煉瓦作りの家が目に留まる。石や木、土などは知っているが、こんな素材は初めて見た。  町を一つ跨ぐだけで違いが多く転がるのに、人間はたった一つの相違で除外されるなんて。あまりに惨すぎる。  あの女の子だって――僕の友人だって、家族だって、喜びも痛みもある普通の人間だったのに。 「ショックだっただろう。辛かったら泣いてもいいよ。変に溜め込むより楽になる」  ぽつり、優しさが落とされた。それは胸に留まり、言葉を誘発する。  いつもの僕ならきっと強がった。だが、幼い頃にトリップしてしまったのか、出来なかった。
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