3人が本棚に入れています
本棚に追加
たった一つ町を移動しただけ――そう思えないほど中央街は異世界だった。やはり髪や目の色は統一されているものの、服装が更に多様になっている。
初めて見るデザインや色の衣装が眩しかった。店の作りも前とは違い、開放された建物そのものが店として使用されていた。
文字らしきものの書かれた看板が、どういう法則か屋根にくっついている。
「ここは三つの町と繋がっている場所だからな。色々な人が集まるし発展も早いんだろう」
視線を撒き散らしていたのかもしれない。アムルは説明し僕に微笑んだ。それから一つの店を指し、帽子の新調を提案してくる。
この町で帽子はスタンダードアイテムらしく、品揃えは豊富に見えた。だが。
「要らないです」
即答する。金銭面に加え、選択に時間を用いるのは惜しい。そう考えたからだ。それから、もう一つ。
「……アムルさんの帽子、好きなので」
アムルがくれた帽子は、締め付けることなく、けれど上手い具合に髪を隠してくれた。
全幅の信頼までは置けないが、僕にとってはお守りのようなものでもある。
アムルは小さく驚き、苦笑った。建前だと受け取ったのかもしれない。
「欲しいものがあれば遠慮せず言ってくれてもいいんだよ」
「……もう十分頂いているので何も要らないです」
「そうか。世界を知るのは楽しいと思うけどなぁ」
「アムルさんこそ新しいの買って下さい。日光暑いですし」
「うーん、じゃあそうするかぁ」
僕に気を使わせまいとしてか、アムルは提案を受け入れた。
即座に選んだ帽子は、僕の頭のものとよく似ていた。彼にも個性があると知り、仄かに顔が緩んだ。
最初のコメントを投稿しよう!