三つ目の町

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 宿に潜り、二人してうつ伏せでベッドに埋まる。目の前に置くのは本と地図だ。  つい先程本を読み終わり、今からルートの確認に入る。  アムルは辿々しい読み聞かせを、幸せそうに聞いてくれた。不安を擽るほど穏やかな時間だった。 「あと一日ほど歩けば領地の端に着くようだ。ところで体は平気?」 「はい」  ここに着くまでの間にも、自然な状態として息苦しさや目眩を幾度と挟んだ。  しかし、これまた自然なアムルの支えで、今回も上手いこと辿着出来た。  何度も成功体験をもらっているからこそ、まとわりつく恐怖を何とか無視できる。 「それで、今回の移動手段なんだが、徒歩か列車か選ばなきゃいけない。徒歩は時間がかかるし、道の整備が届いてないから歩きにくい。けれど、獣や盗賊は出ないと言ってたな。そもそも通行人自体少ないそうで。列車は時間だけ見れば短く済むが、常時満員らしくてね。影は作るけど乗る場所を選んだりゆとりを持って座ったりはできないかもしれない。両者メリットもデメリットもあるけど、ツヅキくんはどうしたい?」 「……それなら歩きの方がいいです。逃げられない所で人の目があるのはちょっと……」 「だよなぁ……じゃあここで色々準備して行こうか」 「はい」 「……何がどのくらい必要かな」  必要物資を唱える声を、ぼんやりした頭で聞き流す。  名詞が次々溢れるのを受け、馬車の方が迷惑でなかったのかもしれない――なんてじわりと心が痛んだ。  そんな、旅に差し支えない痛みで意見を変えたりはしないけれど。
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