三つ目の町

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「ツヅキくん」 「あ、はい」  固有名詞に引っ張られ、脳が自動的に注意を向ける。アイコンタクトを待つ姿勢から、呆としていたことに気づかれていたと知った。 「恐らく二、三日は何もない場所を歩くと思う。屋根のある所では休めなくなるし、そうなると結構な体力が削られるだろうから、ツヅキ君は明日一日宿で休んでくれ」 「えっ」  急な提案に、身勝手な心が拒絶感を覚える。優しさを見つつも、素直に返事ができなかった。  正直、何もしない日を作りたくない。いや、休養も立派な行動であると知ってはいるが、元々僕にとってはあまり意味のないものだ。  だから、可能なら体で感じられる行動に時間を割きたかった。荷物持ちだって、一人より二人の方がいいだろうし。  だが、身を案じての提案だ。わがままを主張するのも気が引ける。 「…………やっぱり買い集めながら端を目指してみようか?」  思案に取られていた心が、自然とアムルへ戻った。反転した意見が、僕の内面を見透かした結果だと言われずとも分かった。  優しさを踏み躙ってしまったようで、小さな罪悪感が疼く。だが、草原のような微笑が、気持ちを大事にしていいんだよと語っていた。 「……すみません、そうしたいです」 「うん、ならそうしよう」  爽やかに決定したアムルは、じゃあ今からたっぷり眠ろうと横たわる。広がったままの地図から、やっぱり距離は割り出せなかった。  あとどのくらい歩けば、海の気配を得られるのだろう。それまでに、この命は保つのだろうか。  追い立てられる気分になって、呼吸が少し早くなる。 「ツヅキくん、先の不安はまた明日に持ちこすことにしよう、ほら」  下からの声が焦りにストップをかけた。ベッドの半分を、ぽんぽんと叩くアムルは変わらず微笑んでいる。  きっとアムルだって、発言通りに不安を放ったわけじゃないだろう。なのに。   気丈を通り越した、騙されそうなほど自然な演技に、僕も見習おうと小さく微笑んだ。
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