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一つ目の町
アムルの右横をひたすら歩く。
彼は自ら盾となり、僕に日陰を与えてくれた。時々起こる、人同士の衝突からも守ってくれた。
気持ちとの差に戸惑うほど、町は賑やかだ。当然ながら、どこを見てもモノトーンの髪と瞳しかないが。
一列に並んだテントには、各々の商売道具が並んでいた。青果を中心に、衣類や武器まで多種多様だ。
「そうだ、さっきは気付けなくてごめんな」
小さな呟きで、視線が左に移動する。周囲の警戒を続ける横顔は、少し悲しげだった。
「寧ろすみません……迷惑かけて」
辛くなったら言うようにします――告げたかった言葉をかき消す。
排除不可能なほどの引き金があり、発作がいつ起こるかは予測できない。可能なだけの無理を避けながら、運に任せるしかなかった。
施設にいた頃も怖かったが、今はその頃より恐ろしい。
「迷惑じゃないよ。仕方ないじゃないか、君はたくさん頑張ったんだから」
地獄の日々が労われると思っておらず、呆然としてしまった。
恐れに飲まれはじめていた心が少し軽くなる。はじめて、十年分の我慢が報われた気がした。可能なら、もう戻りたくはない。
「……今頃、僕たち探されているんでしょうか」
「どうだろう、でも気づかれてはいるだろうな」
「……逃げ切れますかね」
「大丈夫。堂々と移動すれば誰も不審に思わないさ。あ、あの店の前で止まるね」
アムルは、宣言通り足を止める。いつもの朗笑を浮かべると、堂々と店主に声をかけた。
逃亡中であるとは誰も思うまい。和やかさの生成には、慣れすら感じさせた。
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