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彼は僕とは違う。どこかに家もあれば友人もいて、家族だっているかもしれない。だから当然と言えば当然だろう。
羨みは意味を持たないと分かっていれど、持つものの差に少し寂しくなった。
アムルは、購入した橙色の実を素手で割る。姿を現した、瑞々しい果実が舌を期待させた。こんな風に、食欲が刺激されるのは随分と久しい。
「はい、ツヅキくんこれ好きだろ?」
「えっ」
「あれ、違ったか? 前食べた時いい顔してた気がしたんだが」
思い返してみたが、果実に心当たりはなかった。接触したことがあるらしいが、全く記憶にない。
そもそも食事は与えられた行動の一つで、内容に一喜一憂することすらなかったはずだ。
ただ、それも実は僕自身の思い込みだったのかもしれない。
「……すみません、覚えてなくて。でも美味しそうだとは思いました」
「そうか、きっと好きだと思うよ。食べてみて。あ、次あの店にも寄りたいな」
「……頂いてみます」
彼の言う通り、甘酸っぱい果実はDNAにぴったりと馴染んだ。
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