一つ目の町

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 海への道順を尋ねたところ、町民は方角だけを教えてくれた。随分距離があるようで、具体的には説明できないとのことだ。  ただ、本当に“海”は存在するらしい。  強く幻想を重ねていたが、少し現実のものに近付いた。実はないと言われても、まだ容易く信じはするが。  賑わいは大通り限定だったらしく、抜けると人は疎らになる。視線の減少と比例して神経の磨耗も減るが、当然気は抜けなかった。  普通に歩くだけでも息が上がる。一所で時間を潰すのは気が引けたが、定期的に体を休ませ体力を繋いだ。人気の失せた場所では、アムルがおぶさってくれたりもした。  申し訳なさに襲われたが、それ以上の迷惑と比較して委ねた。  「一旦宿に入ろうか」  アムルの視線の先、宿屋を示すマークがある。流れで空を仰ぐと、星が光りはじめていた。夢中で歩いている間に、随分時間が経ったらしい。  大抵の土地が、夜間に治安を悪くすることは知っている。しかし、幼い頃の経験で、夜の行動には慣れていた。人も光もほとんどない環境は、僕らに自由を与えてくれたからだ。  ゆえに進行を選びたかったが、彼の選択を拒むほど我がままではない。
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