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施設
一日中ベッドに押し付けられていては、見える景色など限られてくる。まず、外せないのは汚れた天井。それから――。
「おはようツヅキくん。調子はどうかな?」
「おはようございますアムルさん……変わりないです」
目の前に現れたのは、いつもの顔だった。穏やかに笑う薄灰の瞳に、漆黒の髪――この国の普通を持つ彼は、僕の担当者である。
「起きられそう?」
「……いいえ」
重力に押し付けられた体は、ベッドを放そうとしなかった。無理をすれば起きられるが、今はその気力すらない。痛み続ける内臓を、擦る気分にすらなれなかった。
どうせ今日、この人生は終わるのだから。
「じゃあ、いつも通り行くよ。今日は首にごめんね」
斜めに下げた視線の先、アムルが手際よく準備を始めた。常に下げている肩掛け鞄から、静かに物を出しては台に並べている。
その中から、アムルは小さなナイフを握った。磨かれた刃が、切創塗れの首へと近付いてくる。
「……見てみたかったな……」
刃の行く末から目を逸らし、景色を真っ暗な闇へと変えた。
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