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家政婦に若い頃の両親と思われる男性と女性について尋ねてみた。写っている写真は僕の両親とのことだった。幸せそうに写っていたのに、なぜ、写真カバーのガラスが割られていたのだろうか? そして、僕には双子の妹がいることも聞いた。僕は妹がいるとは夢にも思っていなかった。なぜ、父も家政婦も妹がいるということを隠していたのだろうか? 僕にとって、謎が深まるばかりであった。早速、初めて見る戸籍謄本には香澄という名の妹が確かにいた。また、母の死の記録も間違いなく残されていた。
「健作君、ごめんね、何も言葉をかけてあげられなくて」
「いや、気にすることはないよ」
会社の勤務中に、そう言ってきたのは僕の友達であり、僕が僅かながら恋心を抱いている正美さんだ。正美さんは優しいけれど、八方美人的なところがあって、僕は完全に心を寄せたわけではない。しかし、優しい笑顔に僕はいつも癒されていた。
友達はいないこともなかったけど、僕は孤独感を感じていた。最近よく思うことがある。それは、何故生きているのだろうかということだ。家政婦が作る食事も美味しい、就職したばかりの同僚や上司も優しく、職場環境も恵まれている。そう考える理由は恋人がいないからだろうか? それとも、今まで父を見てきたからだろうか?
僕の父はどうしようもなく、酒に溺れていたが、時々、夕方に海に出かけることが多かった。父は何故、海にでかけていたのだろうか? それがとても気になった。父同様に僕も歩いてみた。島から見える海は夕暮れ時の美しさが僕の心に突き刺さった。まるで、白い砂浜に漂う波は僕に何かを訴えているようにも感じられた。父は何を思っていたのだろうか? そういえば亡くなる前日も海に出かけていた。しかし、いつもなら、寂しげな表情で帰ってくる姿を見るのだが、そうではなかった。姿をみせずに、食事もせず、自室で相変わらず酒を飲んでいたのだろう。遺伝するならば、僕もいずれはそのようになるのであろうか? そう頭によぎった。しかし、時折見せる、愛情に溢れた笑顔の真相は何であったのだろうか? ただ、単に子供であるからだったのだろうか? あれほど、軽蔑していた、父がなぜか愛おしくなった。
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