涙色の雨音

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涙色の雨音

 僕はその夜に夢を見た。それは父と母と僕と妹の4人で手を繋いで歩いている夢だった。夢の世界は突然、雷がなる大雨の中で僕と父だけになった。そして、遠くで妹が泣いていた。まだ見ぬ妹の顔は写っていなかった。気づいた時は僕は体中汗だらけだった。夢は現実を物語るのかもしれない。まさに今は僕の気持ちを象徴しているようであった。  妹はどうしているのだろうか? 僕は早速、妹の所在を調べて伺った。どうやら、祖父母と生活しているようで、恐る恐る、玄関のチャイムを鳴らした。すると、一人の女性がでてきたが、すぐに、僕の妹だとわかった。なぜなら、写真で見て母親と瓜二つだからだった。玄関から出てきた妹は輝きを放っていた。その時、僕は僕でなくなったような気がした。そして、父の死を告げるとその場で泣き崩れた。僕はどうしてあげることもできなかった。鳴き声が響いたのか祖父らしき人物が現れた。祖父のようで、事情を話すと神妙な表情で僕を応接室まで案内した。そして、僕に優しく話しかけた。 「君が健作君だね。私は君の母の父、祖父になる。わざわざ、沖縄から大変だったね。今、思えば彼も可哀そうだったよ。恵子、君のお母さんだ。恵子の出産には私は反対した。そして、お互いに話し合ったよ。彼は出産はやむを得ない、それは、その通りだった。私も随分悩んだ。しかし、恵子の母体が心配だったんだよ。結局話し合った結果、彼は出産をすることを決めて、私は反対し続けた。その結果、君は聞いているかね?」 「はい、聞いております」 「そうか、それは君も辛かっただろう。私は幸樹君を憎み彼と対立した。でも可哀そうなことをした。私の責任でもある」 祖父は次第に頬を伝わるものがあり、遠くを見ているような表情に変わった。 しかし、僕は不思議な感情に襲われた、それは僕の存在についてだ。なんだか矛盾しているような気がして複雑な気持ちになった。  僕はつい、感情的になり祖父に言い放ってしまった。 「それじゃ、僕は生まれてこなければよかったのですか……?」 「それは…… 申しわけない…… 今日はお引き取りください」  妹は泣き崩れていたままだった。僕は複雑な思いでホテルへ帰ることにした。僕は考えすぎなのだろうか? 外は雨が降っていた。傘もささずに涙混じりの雨音が僕に聞こえた。気が付くと雨が上がってホテルの方に虹がかかっていた。それが、理由はわからないが印象的であったが、虹はすぐに消えて無くなっていった。僕はその場に立ちすくんで動けず、空を見上げると母が優しく微笑んでいるような気がした。僕は無力なのだろうか?
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